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「家父長制」は不変なのか?長い歴史から紐解く 世界各地を訪ね歩く科学ジャーナリストの視点

東洋経済オンライン / 2024年11月12日 17時0分

「これら初期の国家では、人口が問題でした」とスコットは言う。「不自由な条件のもとで人を集めて、彼らをそこに留まらせるにはどうしたらいいか。国家を運営する支配層や聖職者、職人、貴族や王族が必要とする多くの食料を生産させるにはどうしたらいいか。それが問題でした」。

不平等と家父長制の拡大を理解するうえで鍵となるのは、人口なのだ。人口規模の維持とその管理が極めて重要だった。

しかし、これまでは財産が注目されることが多かった。フリードリヒ・エンゲルスをはじめとする19世紀の哲学者らは、男性が女性に対する支配権を確立したのは、人類が農業を始めたのと同じ頃だと考えていた。つまり、人々が土地や家畜といった所有できるものを蓄え始めた頃である。

支配層や上流階級の人々が富の大部分を管理するようになった。そして、それに伴って、男性は子どもが本当に自分の子どもなのかを確認し、財産を正当な相続人に受け継ぐ方法を探し始めたとエンゲルスは主張した。だから、男性は女性の性的自由を制限するようになった。

歴史をこのように説明すれば、男性が農作業に従事するようになると、女性の仕事は家庭に限定されるようになる。こうして、公的な領域と私的な領域が男女で役割分担されるようになったと考えられてきた。

とはいえ最近、考古学者と人類学者は見方を変えつつある。エンゲルスやほかの哲学者らが唱えた「農業をきっかけにジェンダー関係が様変わりした」という説は、すでに正しいとは考えられていない。

「農耕を始めて、財産をもつようになった途端、女性を財産として管理するようになったという昔ながらの説が……正しいとは思えません。明らかに間違っていると思います」と考古学者のイアン・ホッダーは言う。「当時の社会は平等で、農業が始まってからも長いあいだ、男女間の差別はあまりなかったと認めるべきだと思います」。

農耕への転換自体も突然生じたわけではなく、長い時間をかけて徐々に行われたとホッダーは話す。人々は野生の動植物と密接な関係をもち、その世話をしていたが、必ずしも植物を植えたり、種を蒔いたり、家畜を飼ったりしていたわけではなかった。

女性や子どもたちは屋外労働を期待される

季節や気候によって、狩猟や採集をするコミュニティもあった。しばらく家畜の飼育をしてみたけれど、うまくいかずに考えを変えたコミュニティもあったかもしれない。

穀物の栽培や家畜の飼育に女性が一定の役割を果たしたことは、疑いようがない。そうでなかったと決めてかかるのは、あまり意味がない。

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