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英仏海峡の高速鉄道「ユーロスター」30年の軌跡 航空機を圧倒する国際列車、環境問題も追い風

東洋経済オンライン / 2024年11月15日 6時30分

一方、欧州大陸のほかの鉄道事業者もロンドンへの乗り入れを狙っていたことがある。過去の最も大きな動きとしては、2010年にドイツ鉄道(DB)が高速列車ICE3を2本連結した編成で英仏海峡トンネルを通過し、セント・パンクラス駅に乗り入れるテスト走行を実施した。

これはドイツからベルギー、フランスを通りトンネルを抜けてイギリスへ乗り入れるための技術・安全面での適合性を調べることを主眼としたテストだった。当日は多くの来賓が招待され(筆者もその場に居合わせた)、「営業運転が近々に行われる」という祝祭感を感じたが、結局現在に至るまで商業運行は実現していない。

また、1990年代にはイギリスと大陸各地を結ぶ夜行列車の運転も計画され、実際に寝台車も造られたが計画は頓挫。宙に浮いた寝台車はカナダに売却されている。

英仏海峡トンネルを経由する国際列車サービスをめぐっては、最近も参入の意志を表明している企業がある。例えば「エボリン(Evolyn)」という新しいオペレーターは2023年10月、「2025年からロンドン―パリ間への参入を目指す」と発表。その直後には、航空会社を抱え、イギリスで鉄道運行の実績を持つヴァージングループも「参入を検討」と報じられた。しかし、英仏海峡トンネルの通過にはさまざまな障壁もあり、なかなか新規参入が実現しないのが現状とみられる。

1994年に運行を開始したユーロスターの名は、イコール「英仏海峡トンネルを走る列車」として、今や欧州だけでなく世界に広く知られるようになった。そのブランドはさらに広がりをみせている。

2022年に、ユーロスターはフランス・ベルギー・オランダ・ドイツを結ぶ国際高速列車「タリス(Thalys)」と合併。2023年9月末からタリスもユーロスターブランドに統合され、新たな道を歩み始めた。

旧タリスの運行ルートはフランスとドイツやオランダなどを結んでおり、つまりブランド統合で「海峡を通らないユーロスター」が登場したことになる。統合によって、イギリスと欧州大陸各地とを結ぶ鉄道が、乗り継ぎを伴うルートであってもよりシームレスに利用できるようになった。

ユーロスターと旧タリスを合わせた2023年の年間利用者数は約1860万人。2030年には3000万人まで増やすことを目標としている。

環境意識の高まりが発展後押し

高速列車と航空とのマーケットシェア争いをめぐっては、日本では「4時間の壁」といった言われ方がある。所要時間が4時間を超えると航空が優位になるという意味だが、欧州の利用者はえてして、全体の所要時間よりも総合的な利便性で優れたほうを選ぶ傾向にある。

【写真の続き】エリザベス2世女王も参列した英仏海峡トンネルの開通記念式典

航空機利用よりトータルの移動時間がかかったとしても、市内中心の駅が利用できる、自宅からのアクセスが近くてバリアフリーで使いやすいなどの理由で列車を使うという声も多い。航空機による環境負荷への懸念から、列車に優位性を感じる人々も確実に増えている。

運行開始から30年を経て、ユーロスターは国際都市間の速達サービスとしてだけでなく、持続可能な交通機関として大きな期待がかかるようになってきた。40周年、さらに50周年を迎える頃には、はたしてどんな新たな役割を担っているだろうか。

さかい もとみ:在英ジャーナリスト

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