「会議資料はコピペ」平安貴族の呆れた"ぬるさ" 「庶民のための政治」をする気は全然なかった
東洋経済オンライン / 2024年11月16日 15時0分
広い視野を持てなくなったからこそ、国風文化が生まれたのではないか。それが平安中期・後期の時代の雰囲気だった。貴族は自分たちの地位を天皇家との恋愛関係によって争うだけとなり、本来やるべき政治をやらなくなった。その溜まった膿のなかで、社会の不満として武士階級が台頭し、貴族社会を脅かすようになってくる……。それが平安時代から鎌倉時代への転換期だったのです。
先述したように、平安貴族たちは全くと言って、庶民に見向きもしませんでした。飢えや災害、病で庶民がバタバタと亡くなろうとも、我関せずというのが平安貴族です。しかし、それは庶民の側にも言えるかもしれません。
中国の場合ですと、始皇帝の秦が滅びるきっかけとなった陳勝・呉広の乱にしても、『三国志』の始まりである黄巾の乱にしても、民衆や農民による大規模な反乱が歴史を動かしてきました。ところが日本の場合には、そうした広範囲の民衆の反乱はなかなか起きません。
日本人の性格にもよりますが、それは貴族たちが知識や知性を独占し、庶民たちはそうしたものからあえて遠ざけられていたという状況があったからなのかもしれません。
外敵もなければ、大きな民衆反乱もない。そのようなぬるい社会においては、貴族は庶民のための政治など、するつもりは一切ない。豊臣秀吉が太閤検地をやり土地の生産量を計測して年貢の割合を決めたとか、徳川家康が年貢を米で徴収するように決めて徳川幕府の財政基盤を固めたとか、のちの時代にあったドラスティックかつエポックメイキングな政策が、平安時代には全く行われていません。
藤原道長の事績を紹介した書籍や研究書の多くが、道長の政策について触れていないのは、まさに道長自身に政治的な特徴がないことの証左でしょう。
藤原道長という1人の人間の才覚など関係ない
この時代の政治とは、革新的な政策を次々に打ち出すのではなく、あくまでも貴族社会のなかの人間関係によって成り立っていました。
本来の意味での政治とは、やはりさまざまな政治方針の違いが提示されて、その上で独自の政治体制を確立するために互いに闘い、争うものだと思いますが、それが実際に行われるのは、先ほども述べたように、貴族に代わって、武士が台頭してきてからのことです。
平安時代には貴族同士の足の引っ張り合いのようなもので、政治が行われていたのですから、まさに「ぬるい」政治が横行していたのです。そんな貴族社会のなかで、「最強」の権力を有したとしても、高が知れていると思いませんか。
そもそも藤原氏の摂関政治自体、自分の一族に「娘」が生まれなければ成り立たない。つまり、偶然が大きく作用するのです。事実、道長と息子の頼通の代に最盛期を迎えたはずの藤原摂関家は、次代には院政に取って代わられ、急速に衰えていきました。となると、道長の代で最大の権力を有することができたのは、もはや藤原道長という1人の人間の才覚など関係ないということになるでしょう。
彼自身が何か特別なことをやったというよりも、皆と同じような政治活動を行っているなかで、"たまたま"強大な権力の座に就いたということに過ぎないのです。それゆえに、道長でなくライバルの伊周や隆家が権力の座にあっても、大勢に影響はなかったことでしょう。
本郷 和人:東京大学史料編纂所教授
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