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「サイコパス」の冷徹さは何らかの役に立つのか 「うまく機能しているサイコパス」に向いた仕事

東洋経済オンライン / 2024年11月19日 8時20分

ありがたいことに、独裁者の虐待に苦しまなければならない人は、私たちのなかにはほとんどいない。

だが、独裁者を権力の座へと押し上げるダークトライアドの特質は、私たちが日常生活で出会う人の何人かを助けている可能性もある。一部の職業には、マキャヴェリズムや精神病質やナルシシズムがある程度必要なのかもしれない。

「うまく機能しているサイコパス」

オックスフォード大学の研究専門の心理学者のケヴィン・ダットンは、著書『サイコパス』で、そう主張している。

人はダークトライアドの特質が多過ぎると、機能不全の極悪人になるが、脳の異常を自分に有利になるように活用する術を見つけ出した「うまく機能しているサイコパス」は大勢いる、とダットンは言う。

この考え方は新しいものではない。私たちにとって、精神病質は水準が高過ぎたり低過ぎたりすると良くないが、ほどほどで、制御されていれば、ストレスの下でうまく立ち回ったり、不合理な情動に基づいて間違った決定を下すのを避けたりするのに役立つ、と社会学者のジョン・レイが1980年代に述べている。

ダットンとレイの言うことには一理あるかもしれない。冷徹で、ストレスや情動に影響されないと、きわめて有益な職業もある。

ダットンは、外科医や特殊部隊の兵士といった例を挙げている。両者は、情動を最大限まで鈍らせたときに、最も力を発揮する。

うまく機能しているサイコパスは、けっしてプレッシャーに押し潰されることのない、優秀な爆弾処理技術者にもなれる。以前の研究でわかったのだが、精鋭部隊の隊員や爆弾処理技術者は、強烈なストレスにさらされていても、心拍数が急激に増えなかった。じつは、極度のストレスの下でいつも以上にリラックスする者さえいた。

このような生理学的に異常な性質のおかげで、彼らは重圧のかかる任務を、圧倒されることなくこなせる。社会を少しばかり明るくできるように、ダークトライアドをうまく導く方法があるのかもしれない。

だが、1つ問題がある。サイコパスがうまく機能しているかどうか、どうすれば判断できるのか? 

サイコパスは、他者を巧みに操るような表面的な魅力を苦もなく発揮する。彼らは、噓やごまかしの名人であることが多い。もし、あなたが判断を誤ったらどうなるのか?

機能不全のサイコパスがうまく機能しているサイコパスのふりをして、特殊部隊に紛れ込んでいたらたまらない。選別検査や心理評価は役に立つが、絶対確実ではない。たとえ、誰かが「うまく機能している」サイコパスだと正確に識別できたとしても、あなたはこれからその人に体を切り裂かれるのだと知ったら、手術を受けたいだろうか?

なぜ「ケチな暴君」が大勢いるのか?

幸い、ほとんどの上司はダークトライアドの傾向が極端に強いわけではない。あなたが不運でなければ、あなたの管理者は本格的なサイコパスではない。これにはほっとすると同時に、心配も湧き起こってくる。

もし権限のある地位に就いている人の圧倒的多数がサイコパスではないのなら、神経学的に正常なのにケチな暴君が、この世にあふれ返っているのはどういうわけなのか?

言い方を変えれば、サイコパスはみな自信過剰だが、自信過剰な人の多くはサイコパスではない。そして、彼らは至る所にいる。

もし私たちが、人を巧みに操るダークトライアドのサイコパスたちを運良く避けられるのだとしたら、自分の生活のじつに多くの面を自信過剰の愚か者たちに支配されるという不運に見舞われることが、なぜこれほど多いのか?

(翻訳:柴田裕之)

ブライアン・クラース:ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン准教授

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