もはやオオカミ少年化している「円安メリット」 円安効果の過大評価がポピュリズム化を招く
東洋経済オンライン / 2024年11月19日 7時30分
「なぜインフレ率が鈍化しているのに日銀は利上げをするのか」と、海外投資家から率直な質問を受けた。
この問いに対して、「インフレ目標達成のことだけを考えれば、低金利政策を維持して円安圧力をかけ続けたほうがよいと言えるが、その間に家計の消費マインドが悪化して個人消費が弱くなってきたので、政治的にも円安に耐えられなくなった」と筆者は回答した。
この回答に対して、質問した海外投資家は、日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)やマイナス金利政策は、円安によってインフレ目標を達成するための政策だったのではなかったのか……?と不思議がっていた。
「円安インフレ」が低金利の狙いだったはずだが
むろん、この日銀の作戦が成功したかどうかの評価には数年はかかるだろう。そもそも物価目標達成はベストケースであり、異次元緩和からの脱却への道筋を付けられただけでも及第点だ、という評価もあるだろう。
いずれにせよ、この作戦が苦戦を強いられているのは事実である。
この背景にあるのは、①円安の悪影響(悪い円安論)が想定外に大きかったこと、②円安の恩恵(Jカーブ効果)が想定外になかったこと――だろう。
このうち、①悪い円安論については多くの国で一般的に生じていることであり、日本だけの問題ではない。
10月27日に行われた衆院選では与党が過半数割れとなったが、11月5日に行われたアメリカ大統領選でも現職副大統領のハリス氏が敗れた。家計や世論はインフレに弱いという面がある。
したがって、より重い課題は「②円安の恩恵がほとんど出てこないこと」である。
すなわち、円安によって日本の輸出企業にとっては有利な状況となっているはずだが、輸出数量指数が増えるどころか弱含んでいる。
各国の輸出数量を指数化しているオランダ経済政策分析局(CPB)の輸出数量指数によると、日本の輸出数量指数は世界の輸出数量指数よりも弱い動きとなっている。
世界の輸出数量指数に対する日本の輸出数量指数の比率(日本が相対的に輸出数量を伸ばしているかどうかの指標)を確認すると、近年は低迷が目立っている。
低迷が目立っているだけでなく、為替相場との連動性がなくなっている点も重要だろう。
金融危機前までは円安になると日本の輸出数量指数は世界全体と比べて相対的に強くなる傾向があったが、金融危機以降は逆方向の動きが目立っている。「円安⇒輸出増」という「短期のJカーブ効果」は、もはや存在しない。
頼みの綱の「長期の効果」も沈黙の兆し
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