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もはやオオカミ少年化している「円安メリット」 円安効果の過大評価がポピュリズム化を招く

東洋経済オンライン / 2024年11月19日 7時30分

この背景について、金融危機後の円高局面で企業の海外移転が進んだことを指摘する見方が多い。

企業の海外現地生産・現地販売が進んだことで、円安になっても輸出(および国内生産)が伸びなくなってしまった(したがって円高は悪である)という指摘である。

この観点からすると、「円安⇒輸出増」という「短期のJカーブ効果」は期待できなくても、「円安⇒企業の国内回帰⇒さらなる円安⇒輸出増」という「長期のJカーブ効果」に対する期待は残っているようである。

確かに、世界の輸出数量指数に対する日本の輸出数量指数の比率と円名目実効為替の動きを2年間(24カ月)ずらして比較すると、アベノミクス以降の円安局面後、日本の輸出数量指数は相対的に少しだけ回復した局面があった。

しかし、今回の円安局面では回復の兆しが見えない。

「円安のメリットが出てくる」という主張は、もはやオオカミ少年化しつつある。

「円安⇒企業の国内回帰⇒さらなる円安⇒輸出増」という「長期のJカーブ効果」が発生するためには、日本企業の国内回帰が進むことが重要だが、この兆候はまだ得られていない。

日本企業の「海外設備投資比率」は2023年度の実績値が19.5%となり、2022年度の18.4%から上昇した。

「海外設備投資比率」はドル円相場に対して約3年遅れで推移してきたことから、2023年度の実績値はまだ途中経過に過ぎないが、「長期のJカーブ効果」が期待できる動きにはなっていない。

デジタル赤字を生かす「潜在的な成長分野」はあるのか

8月に公表された「令和6年度 年次経済財政報告」(経済財政白書)では、以下のように整理された。

デジタル分野等の赤字は、比較優位に基づく国際分業の考え方に基づけば、必ずしも問題というわけではなく、例えば、クラウドサービス利用が拡大していることは、質の高い海外のサービスを活用して、企業のDXが進んでいることの裏返しとも言える。

デジタル赤字を縮小すること自体が目的ではなく、コンテンツ産業など我が国の潜在的な成長分野において、稼ぐ力を強化する取組を進めることにより、結果として、関連サービス分野が成長していくということが重要であろう。

中長期的な成長につなげられるのであれば、デジタル分野を含めて貿易・サービスの短期的な赤字(とそれによる円安圧力)は問題ない――という楽観的な指摘である。比較優位の考え方からは理にかなった指摘なのだが、現状では妄想の域を出ない「我が国の潜在的な成長分野」に対して過度な期待をかけている可能性はないだろうか。

少なくとも現状では楽観的な視点で「Jカーブ効果」を待っている間に家計が疲弊している。その結果、政治がポピュリズム化し、所得減税などのバラマキ政策に突き進んでいる。

産業政策の議論は置き去りになっており、気がついたら成長産業をサポートする財政的余力がなかった、という展開に向かっているように思われる。

このように考えると、最近の政治や財政の問題の根本は、円安が経済に与える影響を過大評価したことにある、と言えそうである。

末廣 徹:大和証券 チーフエコノミスト

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