「インフレ期には株式投資を」に抱く強烈な違和感 株式や不動産投資へのリスクが語られていない
東洋経済オンライン / 2024年11月24日 10時0分
つまり、第2のチャンスで貯蓄額が40000万円に増える可能性があることは魅力だが、それよりも、貯蓄が0になる事態を避けたいと考えるだろう。経済学では、このことを「限界効用が逓減的である」と表現する。
ここで、第3のチャンスが提供され、それは2分の1の確率で800万円になるが、2分の1の確率で200万円になるものだとしよう。
この場合の平均的な収益は500万円で、平均的な収益率は100%だ。この場合には、貯蓄がゼロになるという最悪の状況は避けられる。そのため、多くの人々は、第3のチャンスは第1のチャンスと同じものだと評価したとしよう。
その場合、収益率10%でリスクのないチャンスと、平均収益率100%でリスクのあるチャンスが同じように評価されていることになる。平均収益率の差である90%は、リスクを取ることに対する報酬だ。これを「リスクプレミアム」という。
なお、以上では、課税の影響を考慮していない。収益率の比較は、多くの場合、税引き前利益についてなされる。しかし、収益率の比較は、いうまでもなく、税引き後の利益についてなされるべきだ。
どの程度のリスクを取れるかは、人によって違う
リスクと平均収益率のどのような組み合わせがよいかは、年齢や生活の余裕度、貯蓄額など、さまざまな条件に依存する。いちがいに、高リスク・高収益が望ましいとは言えない。
巨額の資産を持つ人は、その一部をリスクの高い資産に投資することができるだろう。かりにその投資で損失を被ったとしても、他の資産でカバーできるから、全体として困窮するような事態にはならないからだ。
また、年齢によっても違う。年齢が若ければ、失敗しても、後で取り返せるかもしれない。しかし、高齢者になっては、取り戻すだけの時間の余裕がないかもしれない。
一般に、高齢者はより安全を重視すべきだろう。また老後のための貯蓄もそうだ。余裕があればその部分をリスクの高い投資にするということは考えられるが、基本は安全資産である必要がある。
このようなことを無視して、「インフレ期には預金でなく株式投資」といった類のアドバイスをするのは、誠に無責任だと言わざるをえない。
野口 悠紀雄:一橋大学名誉教授
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