北朝鮮「金正恩への奇妙な個人崇拝」が合理的な訳 ばかげた神話の影にある「忠誠審査」という戦略
東洋経済オンライン / 2024年11月27日 10時0分
2000年代初めに、ウクライナの政府は独創的な戦略を立てた。野党側の票が集中している地域では、投票日はごく普通に過ぎたように見えた。人々はいつもどおり票を投じた。ところが、役人たちが開票作業に取り掛かると、投票用紙はすべて白紙だった。
抗議のための白紙投票だったわけではない。野党側が優勢な地区の投票所のペンを、政権側がインクの消えるペンと取り替えておいたのだ。有権者が選んだ候補者につけた印は、数分後に消えた。不正の仕方が巧みになっていたわけだ。
ジンバブエでは、政府は実を結ぶまで18年かかる計画まで考えた。役人たちが、野党側が優勢な地域で生まれた赤ん坊の出生証明書の発行を組織的に怠ったのだ。
その赤ん坊たちが成人して投票――与党に敵対する投票である可能性が圧倒的に高い――のための登録に行くと、受けつけてもらえなかった。身元を証明できなかったからだ。
「私たちを打ち負かすためには、朝よほど早く目覚めなくてはなりません」と、ジンバブエのある政府役人は、バーミンガム大学のニック・チーズマン教授に語った。
これらはみな、腐敗した邪悪な政府が、さらに腐敗して邪悪になるのに上達する例だ。さらに悪質になったのは戦術が進歩したからであり、以前は正直で道徳的だった気質が権力によって蝕まれたからではなかった。
だが、誰か――カクテルパーティで洒落た人間に見えるために、さまざまな名言などを暗記した、鼻持ちならない人のことが多い――が、例のアクトン卿の使い古された金言をひけらかしたときにはいつも、別の現象も持ち出されることが多い。すなわち、誇大妄想だ。そういう人間は、こんなことを尋ねる。
「独裁者は誰も彼もが、頭がいかれてしまうのはなぜか? 金正恩(キム・ジョンウン)は、まだよちよち歩きのときに車の運転を覚えたと言っているのを、知っていましたか? なぜ独裁者はみな、自分自身について、正気の人間ならとうてい信じようもないおかしな神話をでっち上げるのか?」。
それから、その人間は鼻持ちならない輩(やから)だから、気取った笑みを浮かべながら、その質問に自ら答える。「それは、権力は腐敗し、絶対的な権力は絶対的に腐敗するからです」
これは、カクテルパーティで気の利いた口を利く尊大な人が間違っている例だ――もっとも、けっして最初の例ではないが。
金王朝の「チュチェ思想」
独裁者はとんでもない行動をする。彼らの神話(政治学の世界では「個人崇拝」という)は奇妙であることが多い。だがその行動は、じつは戦略的で合理的であり、頂点にとどまり続ける方法を学習した結果、採用したものだ。
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