北朝鮮「金正恩への奇妙な個人崇拝」が合理的な訳 ばかげた神話の影にある「忠誠審査」という戦略
東洋経済オンライン / 2024年11月27日 10時0分
北朝鮮では、金(キム)王朝が自らの支配を軸とする「チュチェ思想」という神学体系をまるごと1つ作り上げた。この風変わりな神話を暗記しなければ、この国では生きていられない。なぜなら、国家の公式な教義に異議を唱えたら、死刑判決か強制労働収容所への片道切符につながる可能性が高いからだ。
だが、金一族についての物語は、客観的には不条理だ。公式には、金一族は何千ものオペラを作曲したことになっている。ただの人間のようにトイレに行く必要はないことになっている。ハンバーガーを発明したことにさえなっている(現地では「肉を挟んだ2枚のパン」を意味する言葉で呼ばれている。公平を期するならば、そのほうが「ハンバーガー」よりも呼び名としてははるかに正確だろう)。
これはすべて、独裁者が時を経るうちに学ぶ、きわめて重要な目的に適う。信用できる人間とそうでない人間とを選別する忠誠審査の役割を果たすからだ。
もし人々が「親愛なる指導者閣下」についての明らかに不条理な噓をまくしたてて、公衆の面前で恥をかくのも厭わないようなら、彼らは政権の信頼に値する可能性が高い。不条理な言葉を言われるままに復唱する取り巻きには、投資する価値がある。
噓が極端になる理由
ただ問題は、指導者にまつわるこうした神話が、いずれ社会の中でありふれたものとなり、誰もわざわざ繰り返さなくなることだ。その解決策は? ますます荒唐無稽な神話をでっち上げ続け、政権内部と社会の内部の人間を絶えず試し、誰がそれに同調し、誰が同調しないかを確かめればいい。
この戦略がラチェット効果を発揮する。もし噓がしだいに極端にならなければ、忠誠審査は役に立たなくなる。
独裁者の心は、絶対的な支配への渇望によって歪められているように見えるものの、彼らが戦略に磨きをかけているだけの場合がよくある。権力は彼らを腐敗させなかった。彼らは、学習によって悪行が上達したのだ。
(翻訳:柴田裕之)
ブライアン・クラース:ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン准教授
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