次の狙いは「中東」?欧州鉄道メーカー最新事情 水素車両は一段落、目立つ新車の「納期遅れ」
東洋経済オンライン / 2024年11月27日 6時30分
イギリス向けの99型電気機関車は、同社の売れ筋となっているバイモード(電化・非電化区間両用)仕様で、電気機関車としては6170kWの性能を誇り、カミンズ製16気筒ディーゼルエンジンからは1790kWの出力を得る。
近年の欧州では、一般的な電気機関車はシーメンスの「ヴェクトロン」が他社を圧倒しているが、バイモード機関車に関してはシュタドラーが幅を利かせている。99型は、リース会社ビーコンレイルから30両発注され、さらに20両のオプションが用意されている。
新型車苦戦と買収騒動に揺れるタルゴ
スペインのタルゴは、前回のイノトランスでドイツ鉄道向けの新型客車「ICE-L」を展示したが、それから2年経過した現在も運行に必要な認可を取得できておらず、現時点で納期が2年近く遅れることが発表されている。
ドイツ鉄道は従来の客車に代わる次世代の長距離列車として、タルゴの連接式客車の導入を決めたものの、納期は現時点も不明で、当面は旧型客車をそのまま使い続けなければならなくなった。既存の技術とは異なる、まったく新しいものを導入する際に付きまとうリスクである。
当初は同時に発注していた機関車の製造が遅れ、客車が先にデビューするという話だったが、もたもたしているうちに機関車は完成してしまい、今回のイノトランスに展示された。
一方、まったく同型の客車を発注したデンマーク鉄道は同車を展示したが、こちらも納期が遅れる可能性が指摘されている。タルゴはチェコのシュコダグループが買収する動きを見せており、展開次第ではこの先のビジネスにも影響がありそうだ。
環境対応、まずはハイブリッドやバッテリーか
冒頭で述べたとおり水素燃料の話題は一段落したという印象があり、動力源は水素を含めさまざまなオプションを提示する展示が多かった。水素燃料車両が展示の中心となる時代は、技術が安定し、供給源が確立したあとのことになるだろう。
ただし、環境問題に対する訴えが下火になったという意味ではない。水素が現代社会において、まだエネルギー源の主役になり得ていない現状を踏まえ、ほとんどのメーカーがそれ以外の方法での低公害化を提案するようになっただけのことだ。
例えば、非電化区間向け車両はハイブリッド式が中心となったのはやはり環境問題を意識してのことで、架線からのバッテリー充電式を含め、乗用車のハイブリッド車やPHEVと同じ道をたどっているようだ。ディーゼルエンジンやバッテリーを電車に搭載し、電化区間も非電化区間も走ることができるバイモード車両も各国で採用されつつあり、日立の「マサッチョ」のようにすべて搭載したトライブリッドなる仕様も登場した。
水素燃料技術の未来は、2024年11月1日付記事『故障で全面運休も、欧州「水素列車」の前途多難』でお伝えした通り、安定した供給ができるインフラの整備と、故障せずきちんと走らせることができるかどうかにかかっているといえる。この先順調に技術が熟成され、故障が少ない信頼性の高い製品の量産化が達成されるまでの数年~十数年は、大容量バッテリーによるハイブリッド車やバッテリー車両が、非電化区間の中心となって活躍する時代が来るのではないか、と予想される。
橋爪 智之:欧州鉄道フォトライター
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