北九州・暴力団本部跡地に福祉施設が建つ意義 社会から排除される人を出さない「まち」作り
東洋経済オンライン / 2024年11月28日 11時0分
福岡県北九州市にあるNPO法人「抱樸」(ほうぼく)が12月2日までに1億円のクラウンドファンディングを募っている。「希望のまち」と名付けられる複合型福祉施設を建設するためだ。その場所は、北九州市に地盤がある特定危険指定暴力団「工藤会」の本部事務所跡地だった。なぜ、この地を新たな福祉の拠点にしたのか。
2026年中の開設を目指す「希望のまち」は3階建てで、2階と3階には生活困窮者のための個室型の救護施設が設けられる。1階には障害のある子どものための放課後等デイサービスのスペースや、子どもや家族を支援する相談室などが置かれる。同時に、デートに使えるようなおしゃれなレストランや、コンサートや葬儀などに使われる大ホールができる予定だ。地域の誰もが気軽に出入りできる「まち」を作るのだという。
抱樸は、1988年から36年間ホームレス支援を行ってきた。炊き出しや深夜のパトロール、住宅支援、就労支援、互助会を組織して葬儀をするなど、支援を受ける側のニーズや時代の変化に沿って、活動の幅を広げてきた。この36年間で約3750人が路上生活から離れたという。現在、抱樸は子どもやその家族の支援も行っている。支援を始めたのは、子どもが将来ホームレスや困窮、孤立状態に陥らないようにするためには、家族を丸ごと支援していくことが必要との考えによる。
好立地なのに開発が進まない理由
筆者は希望のまちの予定地を訪ねた。そこにはすでに「SUBACO」(すばこ)と呼ばれるプレハブが建ち、北九州市在住の画家、黒田征太郎さんが子どもたちと描いたカラフルな壁画が描かれている。毎週火曜日には地域の人が集うカフェが開かれ、時には地域の人を講師として学ぶという企画が始まっている。
この地には、北九州市に地盤がある特定危険指定暴力団工藤会の本部事務所があった。特定危険指定は、日本全国で工藤会だけだ。工藤会は、その前身時代の1990年代から、追放運動を行う市民に執拗な攻撃を仕掛けてきた。九州電力会長宅に手榴弾が投げ込まれた事件や、県警OBの家への放火事件への関与が疑われている。会の意向に従わない組員を殺害することもあった。
県は、資金源を断つために全国初の暴力団排除条例を制定。2019年に工藤会は福岡県暴力追放運動推進センターが本部のあった土地を買い上げることに同意した。建物の解体費用などを除いた売却益は、工藤会による襲撃事件の被害者への賠償に充てられることになった。
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