イスラエルとレバノン「60日停戦」に至った事情 弱体化したヒズボラとイスラエルが迎える試練
東洋経済オンライン / 2024年11月28日 14時0分
イスラエルのネタニヤフ首相は、停戦の発効に当たってビデオメッセージを公表した。その中で、停戦する理由は次の3つであると述べた。
1.イランの脅威に対応するため
2.武器の供給に遅れが出ているため
3.ハマスを孤立させるため
ハマスが始めたこの戦争で、イスラエルは7正面の戦いを余儀なくされてきた。ガザのハマス、レバノンのヒズボラ、西岸地区のテロリスト、イエメンのフーシ派、そしてイランの革命防衛隊およびイランが後ろ盾のイラクとシリアの武装勢力である。
イスラエルはガザに拉致された人質救出を第1目標に掲げており、当初ヒズボラには限定的な反撃にとどまった。ヒズボラも「本格的な戦闘拡大は望まない」として、攻撃対象をイスラエル北部に限定した。こうして対ヒズボラ戦線は、消耗戦の様相を呈していった。
そもそもの戦闘の契機
そのような中、事件が起きた。2024年7月27日、ヒズボラが発射したミサイルがイスラエル領内のドゥルーズ村に着弾し、12人の子どもが死亡した。
ドゥルーズとはイスラム教の一派で、イスラエルやレバノン、シリア、ヨルダンにまたがって住む少数派だ。イスラエルでは主にゴラン高原などの北部地域に住んでいて、イスラエル市民権を持ち、イスラエル国防軍(IDF)にも従軍している。
この事件が契機となり2024年9月19日、イスラエルは「北の矢作戦」を開始、本格的なヒズボラとの対戦が始まった。作戦開始から8日後の9月27日、IDFはベイルート南部のダヒヤを空爆し、ヒズボラのナスララ最高指導者を幹部もろとも排除したのである。
この作戦に先立って、ヒズボラメンバーが所持するポケットベルやトランシーバーが爆発し、数千人が死傷するという事件が起きた(「ハマス・イスラエル戦争から1年・中東情勢の行方」参照)。
この攻撃について、イスラエルは沈黙を貫いているが、イスラエルの諜報機関が関与したのは間違いないだろう。
今振り返ると、この作戦は実に計画的だった。最初はポケットベルの爆発。ポケットベルは一方向の受信のみなのでヒズボラの中でも下位メンバー、翌日に爆発したトランシーバーは双方向なのでより上位メンバーが対象となっている。
下位から上位へと連絡が取れなくなっていくことにより、幹部との連絡はアナログからデジタルの連絡手段に変更せざるをえなくなった。そこで幹部の位置情報が傍受され、最高指導者の暗殺に繋がったものと思われる。
ネタニヤフ首相は停戦当日の演説の中で、「1年が経過し、ヒズボラはすでに以前のヒズボラではない」と述べ、ナスララ最高指導者をはじめ多くの幹部が排除されたうえに、戦闘力は数十年前にまで弱体化したという。
IDFへの武器供給が遅延していることも明かしているが、この停戦によって自国の戦力を回復させたい狙いがある。これはヒズボラも同じで、停戦期間中に立て直しを図るはずである。
60日と限定された期間だが、決して静かに過ぎることはないだろう。ネタニヤフ首相は「停戦協定を破って先方が攻撃を仕掛けるなら、われわれは反撃する」と明言している。ガザでもハマスの残党が蠢いている。
陰で糸を引くイランが今後どう動くのか。そしてイスラエルは、ガザに拉致されたままの人質101人をどう取り戻すのか、イスラエルの試練はまだまだ続いている。
谷内 意咲:ミルトス代表
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