「ふてほど」の流行語大賞にこうも納得できない訳 流行ってないうえに、世相を全く反映していない
東洋経済オンライン / 2024年12月5日 8時30分
今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」で、年間大賞が「ふてほど」に決まった。一目見て意味がわからなかった人が大半だったのではないだろうか。そして、意味を知った後もなお、違和感が拭い切れなかった人もまた多かったのではないだろうか。
【もはやクイズ】何個知ってる? 今年の「流行語大賞」トップ10
Xでは流行語大賞がトレンド入りし、同じように否定的な感想で溢れた。「ふてほど」とは、大ヒットしたTBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』の略称のことだそうだが、そもそもそのような略称が巷で飛び交った形跡はない。
事実、授賞式に登壇した主演の阿部サダヲは、「正直、『ふてほど』って自分たちで言ったことは一度もない」と発言し、会場の笑いを誘った。
暗いワードではなく、明るいワードを選出した?
もちろん年々、国民全体に通じるような流行語というものが難しくなっており、近年スポーツ絡みのものが続いたことはそのような時流の変化によるところもあっただろう。
けれども今回、「裏金問題」「ホワイト案件」などの言葉がトップ10にあったことを踏まえると、ここには物事の明るい面にあえて光を当てようとした意図がうかがえる。
「ふてほど」はユートピアとしての昭和だった
「ふてほど」は、昭和と令和をタイムトラベルを介することでつなぎ合わせ、その文化的なギャップを笑いの種に変える挑戦的な展開が話題を呼んだ。
セクハラやパワハラ、働き方改革、ジェンダー等々、過度な「ポリティカル・コレクトネス」(あらゆる差別表現をなくすこと)にかえって息苦しさ、不自由を感じている現状を軽妙に批評してみせたのである。
だが、それ以上に本作は、昭和的な高揚感を起爆剤にしていることを忘れてはならない。あくまでユートピアとしての昭和であって、解毒され、漂白され、美化された空中楼閣なのである。
このような空中楼閣によって隠されたのは、「裏金問題」「ホワイト案件」などに象徴される、この国の凋落と衰退だろう。
「闇バイト」という言葉を聞かない日はない。「最近、いわゆる『闇バイト』による強盗・詐欺の報道を見ない日はありません。他者への慈しみや堅実な努力といった、日本社会の中で大切にされてきた価値観・道徳観を揺るがしかねないものであり、こうした犯罪を断じて許してはなりません」――これは11月29日の石破茂内閣総理大臣の所信表明演説における治安対策への言及である。
そして、皮肉なことではあるが、このような恐るべき犯罪が生まれる土壌となった、「失われた30年」という中間層が崩壊して下層化していく日本社会をネグレクトし続けた与党のトップが、まるでその後始末に困惑するかのようなことを声高に叫ばなくてはならなくなっている。
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