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脱毛「アリシアクリニック」破産前から危険サイン 脱毛サロンの倒産が繰り返される背景事情

東洋経済オンライン / 2024年12月12日 17時30分

ただ、TSRは寄せられた意見も鑑みて、脱毛サロンをはじめとする、必要資金を借入金でなく前受金で充当している「前受金ビジネス」の動向に関するレポートを作成し、2024年2月13日にホームページで公表した。TSRが保有する決算データを分析すると、約2割の企業が前受金(前受収益含む)を貸借対照表に計上していた。また、全体の0.4%の企業は、総負債に占める前受金の割合(負債前受金比率)が50%以上に達していた。

業種によってビジネスモデルはさまざまで、この比率が高いことが一概に悪いわけではない。ただ、レポートでは「前受金ビジネスは、顧客の増加が続く限り、前受金を元手に積極的に事業拡大を進めることができる。だが、ひとたび顧客が減少に転じると、これまでの投資があだとなり、一気に手元資金がひっ迫する事態になりかねない」とチェックポイントを指摘した。

過去、アリシアクリニックは、テレビCMで積極的に広告宣伝していたが、最近はすっかり見かけなくなった。一般個人向けのサービスで、同業との競合が激しいなか、広告宣伝の減少は新規顧客の獲得に大きく影響する。つまり、「顧客減少」と「手元資金の逼迫」の可能性を告げるサインがあった。こうした日常での違和感も、与信上の重要な情報だ。

今回破産した2つのクリニックの負債前受金比率はどうだったのか。じぶんクリニックの決算書は入手できていないが、アリシアクリニックは2023年4月期の決算書が手元にある。それから算出すると84.3%に達する。前述のとおり、比率が50%を超える企業は0.4%しかない。その中でも突出した企業に位置付けられる財務内容だった。

脱毛サロンの倒産が繰り返される背景事情

繰り返される脱毛サロンの倒産では、泣き寝入りするしかない多くの被害者を見てきた。倒産や事業再生をウォッチする立場ではあるが、多数の被害者を生んでいるにもかかわらず、大半の案件が破産となっていることに憤りを覚える。1~11月のエステティック業の倒産99件のうち、破産は94件(構成比94.9%)と圧倒的に多い。

窮境局面にある企業の債務整理の手段は多岐にわたるが、社会への影響が大きい場合は事業継続と取引先、従業員への影響を最小限にとどめることが必要だ。民事再生などの再建型倒産や計画前事業譲渡はその代表例である。単純な破産では、未消化のサービスへ有効な手段を取りにくくなる。

金融機関による「デット・ガバナンス」が効きにくい業界であることも一因だ。アリシアクリニックの2023年4月期の貸借対照表の借入金はゼロだった。前受金を基に、運転資金を確保していたことが背景にあると思われる。

メインバンク制が薄れてきたとはいえ、企業が窮境局面に陥った際、金融機関の影響力は大きい。収益改善に向けた計画作成の支援や、スポンサーや事業譲渡先を探すサポートなどに対応する金融機関は少なくない。ただ、あくまで金融機関から借り入れがあり、信頼関係が構築できていた場合の話だ。

脱毛サロン業界は、ひとたび経営が破綻すると多くの被害者を生む。だが、外部の目は行き届きにくく、有事の際も的確なサポートにリーチしにくい構造になっている。契約に際しては自身のアンテナを最大限伸ばすことが必要だ。

原田 三寛:東京商工リサーチ情報本部情報部長

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