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世界的音楽家・辻井伸行「思い出の大作」への情熱 名門レーベル「ドイツ・グラモフォン」と専属契約

東洋経済オンライン / 2024年12月15日 8時0分

ベートーヴェンの生きた時代はピアノがすごく発展していた時期で、彼はピアノの可能性をすごく引き出した作曲家だったんじゃないかと思います。

32曲あるピアノソナタの中で、29番のハンマークラヴィーアは後期3大ソナタ(30~32番)につながる作品です。前期・中期・後期と全曲を聴いていくと、ピアノの発展がすごくよくわかる。ハンマークラヴィーアが作られたころはとくにそうです。

4楽章の壮大なフーガ(旋律が追いかけあう遁走曲)も含め、ピアノのいろんな可能性を切り開き、それまでの作曲家がやってないこともたくさんやっている。好奇心旺盛な作曲家、ベートーヴェンはそういう人だったのでは、と僕は感じます。

ベートーヴェンの苦しみ、葛藤や悲しみ

――今回の録音にあたって心がけたことは?

ハンマークラヴィーアは全体で約50分と特に長い曲で、弾きこなすことは自分との長い長い戦いです。この曲が作られたころは、ベートーヴェンは耳が聞こえなくなってしまった時期です。その苦しみ、葛藤や悲しみが曲の中に深く刻まれています。そうした思いをどう表現するか、本当に悩みました。

まず、作曲家が楽譜に書いたことを忠実に再現するのは、クラシック音楽家として大事なことだと思っています。今は亡くなってしまったベートーヴェンやショパンは、楽譜にいろいろ書き残してくれている。そこからどういう思いでこの曲を書いたのかを読み取って、そのうえで自分自身の個性を出して表現していく。そうやって自分の音楽をつくっていくことが大事なことだと思います。

――ハンマークラヴィーアの録音では、緩徐楽章の第3楽章に苦労したそうですね。

3楽章だけで20分弱くらいある長い楽章なので、集中力を途切れさせることなく弾くのはまさに精神的な戦いです。苦しみや悲しみをゆっくりしたテンポで表現するので、一つひとつの音を大事に大事に表現しなければならない。悩んで悩んで、とにかく弾き込んで、納得いく演奏にするまでには時間がかかりました。

音楽の流れが途切れないことを意識して、早すぎてもいけないし遅すぎてもいけない。テンポについてはグラモフォンのエンジニアやプロデューサーと何度も話し合い、何回も弾きなおして自分が「これだ」と思うものを選択しました。

せっかくグラモフォンと第1弾のCDを出すのですから、納得いく演奏にしたかった。録音でも編集でも、これでいいんだろうかと何度も弾いて、何度も聴きなおした。時間もかかり大変な思いはしたけれど、完成したときには大きな達成感がありました。

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