強引なメジャー移籍でプロ野球「空洞化」の危機 球団とエージェントの関係の見直しが必要
東洋経済オンライン / 2024年12月21日 9時0分
この場合の代理人(エージェント)と、芸能活動などをする際のエージェントは厳密にいえば違うが、その境界線はあいまいである。
日本の野球界とエージェントの関係は、まさに過渡期にあると言える。
MLBでは、FA(フリーエージェント)制度の導入以降、多くの選手がエージェントと契約し、エージェントを介して、球団と厳しい交渉のやりとりをするようになっている。
今では、マイナーリーガーも含め、多くの選手が代理人契約をしている。筆者はオフになるとMLB球団とマイナー契約をした日本人選手の取材をすることがあるが、まだ入団前なのに「代理人に聞いてみます」と言われることもある。
しかしMLBとの選手の人的交流が盛んになるとともに、エージェントの重要性はますます強まっている。
報じられる「エージェントの暗躍」
今、大きな話題になっている千葉ロッテからポスティングでの移籍を目指す佐々木朗希についても「エージェントの暗躍」が報じられている。
なぜ、佐々木朗希は、MLB球団に移籍する際に大きな譲渡金(ポスティングフィー)が支払われる「ポスティング年限=実働6年、25歳以上」を待たずにMLBに移籍しようとしたのか? また、それを球団はなぜ許したのか?
2019年に佐々木がドラフト1位でロッテに入団する際に、何らかの「約束」があったのではないかという報道がある。そう考えないと今回の「移籍劇」は説明がつきにくいが、球団も佐々木サイドも否定している。
佐々木は移籍の前に「プロ野球選手会」を脱退している。実は、2023年オフにドジャースに移籍した山本由伸も選手会を脱退している。プロ野球選手会は「FA制度」「ポスティングシステム」などで、選手の権利を拡大するための働きかけをNPB球団に対して働きかけている。山本や佐々木の移籍を否定するような見解を出すとは考えられないが、「嘴を挟まれる」ことを嫌って脱退したのだろうか。
この問題は、佐々木朗希だけの問題にとどまらない。広島の森下暢仁、ヤクルト高橋奎二 、中日の高橋宏斗、オリックス宮城大弥、山下舜平大、西武の高橋光成、今井達也、平良海馬、日本ハムの伊藤大海など、NPBの20代のエース級の投手が軒並みポスティングシステムでの「MLB挑戦」を表明している。
近年、千賀滉大(ソフトバンク→メッツ)、山本由伸(オリックス→ドジャース)、今永昇太(DeNA→カブス)などMLBに移籍した投手(千賀はFA移籍)が軒並み活躍した。彼らはNPBでは絶対に手にすることができない巨額の報酬を得ることができたのだから、これに続くエース級が「我も我も」となるのはある程度仕方がない。
NPBの「空洞化」につながりかねない
しかし佐々木朗希の移籍が前例となって、ポスティング年限以前での移籍など、強引な移籍が続けば、NPBの「空洞化」につながりかねないし、日米プロ野球間の信頼関係も損なわれる恐れがある。
多くの有望投手はすでにエージェントとつながっていると言われる。また、山本や佐々木のように選手会を脱退する選手も出てくる可能性がある。
今回の一件は、NPB球団のエージェントに対する「拒絶反応」をさらに強めた印象があるが、多くの選手が何らかのエージェントと公然、非公然でつながっている現在、NPB、球団は、エージェントの存在を認め、その包括的な役割を容認するとともに、球団、選手双方にとってメリットがあるような「協定」を結ぶべきではないか。
この際には、プロ野球選手会が加わることが望ましいと思うが、抜け駆け、裏交渉の余地をなくすような明文化したルールを設ける必要があると思う。
広尾 晃:ライター
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