いつの間にか消えた「NTT法廃止論」、空転の裏側 政治に振り回された議論が浮き彫りにした難題
東洋経済オンライン / 2024年12月23日 7時40分
NTTが保有する光ファイバー網などを資本分離するよう提案してきたソフトバンクの宮川潤一社長は「この議論はあるべくしてあったから、恨みつらみはまったくない。日本の通信のために落ち着くところに落ち着いてきた」と話した。そのうえで、「自民党が最後どういう結論を出すか注視したい。大逆転があるとしたら、もう1度大声を出さないといけない時期がくるかもしれない」と、政治主導で有識者会議の結論が覆らないように牽制した。
NTT側は「かなり満足している」
一方、劣勢を強いられたNTTの島田社長は同日、「NTT法ができて40年で初めてユニバーサルサービスが変わるのは、すごくエポックメイキングだ。ユニバーサルサービスの議論はかなり満足している」と強調した。
NTTは、固定電話縮小への対応を喫緊の経営課題に位置づける。固定電話をユニバーサルサービス制度に基づき不採算地域を含めて提供し続けるのにはコストがかかり、国が一部費用を支援しているものの、それでも発生する多額の赤字をNTT側が負担している実態があった。制度改正が実現すれば、大幅な赤字縮小が期待できるという。
NTTにとっては、すでに今春のNTT法改正で、国際競争力強化に向けた規制緩和が実現している。島田社長によると、研究成果の普及責務が撤廃されたことで、NTTが進める光電融合技術を活用した次世代の通信基盤「IOWN(アイオン)」構想の展開に向け、海外のパートナー企業の懸念が払拭されたという。法改正で可能になった社名変更や外国人役員登用も、来年行われる見通しだ。NTT法廃止にまで至らなくても、議論を通じて大きな成果が得られたとみているようだ。
今回の議論が不幸だったのは、政治主導で見直しが進められた結果、通信業界の分断が生まれたことだ。一連の議論では、NTT法の存廃をめぐるプロレス的な様相を呈し、各事業者の「本筋から離れたポジショントーク」(政府関係者)も目立った。
長年タブーとされてきたNTT法の抜本的な見直しは、政治発の強引なやり方でなければ、議論が進まなかったのは確かだ。業界の分断を招いても戦ったNTTの姿勢は、「普通の会社」になろうとする覚悟を示したといえる。ただ、ハレーションの大きさは、それだけ長年NTTに課されてきた規制の重みも示している。
残されたテーマの検討の行方は
1年半にわたる議論の末、終着点が見えたNTT法見直し。答申案には、ユニバーサルサービスのあり方や特別な資産の扱いをめぐり、さらなる検討を求める内容も盛り込まれたが、政治情勢の変化で制度改革を後押しする機運が低下したことで、今後はしばらく見直しが進まない可能性もある。
NTT法をめぐる議論の紆余曲折は、政治に大きく左右される日本の通信業界が置かれた実態を改めて浮き彫りにした。時代に即した規制のあり方は、これからどのような形で議論していくことが建設的なのか。いくつかの重要な論点が残されたまま、業界は日常を取り戻しつつある。
茶山 瞭:東洋経済 記者
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