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都心タクシー「プチバブル」早くも終焉の業界事情 稼げる状況に転職者が一時殺到も事業者側が苦境に

東洋経済オンライン / 2024年12月24日 9時40分

また、直近3年間で毎年100人前後と、新卒採用を積極的に行う国際自動車の決算報告会ではこんな話も聞かれた。

「新卒採用も苦しい時期を迎えています。タクシー不足が叫ばれて以降、先行投資感覚で各社がお金をかけるようになり、年々採用のハードルは高まっているのが現状です」

燃料費の高騰、高額な採用フィーの支払いは、確実に経営を圧迫している。そして、車両が回復傾向にあるということは、ドライバー1人当たりの収入は低下しているという見方もできるのだ。となれば、せっかく集まってきた人材を留めておくことも困難になってくる。

仮に値上げが実施された場合、客単価は上がり、営業の効率化にもつながる。つまり、値上げによりドライバーの給料を確保できなければ、離職者が増えることを懸念しているともとれるといえる。

値上げが業者の増収につながった

ざっくりとした計算にはなるが、値上げした各地域の増収率は10%から14%程度で推移している。タクシー事業者から値上げを求める意見が多かったのは、そういった影響もある。

一方で、必ずしもタクシー運賃の値上げに賛成という意見ばかりではない。2022年の運賃改定では懸念されていた「タクシー離れ」は都内で表面化しなかったが、短期間の再度の賃上げによりタクシーから離れる層が出てくる可能性は大いにある。

事実、既に値上げを実施した地域からは「値上げによりタクシー利用者は減りました。もともと高齢化していた利用者層は、より顕著になっています」という声も聞こえてくる。

大雑把にいうなら東京や大阪のような都心部の稼働率が高い会社ほど、値上げには慎重というスタンスが目立ち、「うまく循環しつつあるのに値上げにはリスクがある」という意見がある。逆に、地方の稼働率が低い会社ほど賃上げに前向きという言い方をしてもいいかもしれない。

関西のタクシー事業者幹部は、か細い声でこうも打ち明けた。

「近い将来の値上げは避けられないでしょう。ですが、それが今であるかは十分な検証が必要でしょう。まだコロナの傷跡から回復しきれていない状況のため変化は怖いですね」

日常使いをしない利用者に配慮しない

利用者視点では、値上げを歓迎するという意見は稀だろう。法人での利用ができる場合はさておき、値上げにより一般利用を躊躇する者も出てくると考える方が一般的だ。都内のあるタクシー会社代表は、以前私にこんな話をしていた。

「値上げに関係なく、タクシーを利用する人はするし、しない人はしない。それが今のタクシー利用を取り巻く率直な感想です。日常利用の中でタクシーを利用する層は、かなり狭まっている。公共交通機関としての役割はもちろんありますが、普段利用しない層へ配慮する余裕はもはや業界にはありません」

物価高や人件費高騰の波に、タクシー業界も直面している。国交省は2024年度の補正予算案の概要を公表していたが、「賃上げ環境の整備」「地方創生」などの関係予算は2兆2478億円にものぼる。私たちの日常にも関わるタクシーの値上げの是非を問う議論は、来年以降本格的に進んでいくことになるだろう。

栗田 シメイ:ノンフィクションライター

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