ガザで「光」を見たイラク人10年ぶりの救出劇 ユダヤ教の「ハヌカ」を期に振り返る苦難の物語
東洋経済オンライン / 2024年12月25日 8時50分
そんな彼女に転機が訪れた。2023年10月に勃発したハマス・イスラエル戦争で、イスラエルがガザに地上侵攻して間もなく、彼女を監禁していた家族はいなくなった。戦闘員として戦死したのか、逃亡したのか、詳細は不明である。
ガザは戦場と化していたので、自分で動き回るのは危険だった。彼女は安全と思われる場所に避難し、助けを求める動画をTikTokへ投稿した。ヒジャブをかぶり、顔の一部を泣き絵文字で隠していた。
「助けてください。私をこの場所から出してください」
2024年6月、この動画がヤズィディの救出活動をしている人物に届いた。しかし、戦時下の救出は困難だった。イスラエルの協力なしには不可能だが、協力を求めたところで「今それどころではない」と一蹴されるかも知れない。
イスラエルにアメリカとイラクが協力
しかしイスラエルは協力要請を受け入れた。どのように救出するのか、救出した後はどこに向かうのか、綿密に計画を立てる必要があった。イスラエル国防軍(IDF)にアメリカとイラクが協力する形で、3カ月かけて極秘の任務が進められた。協力者の中にはイスラエル人ジャーナリストや実業家もいた。
2024年10月1日、ついにその時がやって来た。ガザ地区南部のケレム・シャローム検問所を通過したファウジアさんは、用意された車両に乗り込んだ。彼女の頭上には無事を見届けるドローンが飛ばされていた。
その後、アメリカ大使館職員が付き添い、アレンビー橋を渡ってヨルダン領に入り、イラク領事館に保護された。
翌日、飛行機でイラクのバグダッド、アルビルに飛び、車でシンジャールに入った。10年ぶりの帰郷だった。ファウジアさんは21歳になっていた。ISの虐殺を生き延びた父は3カ月前に亡くなっていた。懐かしいはずの故郷の風景は、もうそこにはなかった。
イスラエルとイラクには国交がない。イラク政府はアメリカに対して謝意を示したが、この救出作戦を陰で支えたイスラエルに関する言及はなかった。
ファウジアさんはヤズィディ教徒のコミュニティに戻った。筆舌に尽くし難い壮絶な10年をくぐり抜け、彼女は自由を取り戻した。人生の半分をISとハマスの奴隷として過ごした彼女は、また同じことが自分の身に起きるのではないかという恐怖と今も戦っている。
家族を失った悲しみ、平和な故郷を陵辱された怒り、失われた自らの10年間を振り返り、様々な感情に苦しめられている。2人の子どもとは、ずっと会えていない。
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