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「えぐい」「やばい」「すごい」に見る言葉の"世代交代" 全部ほぼ同じ意味だが"発展段階"が異なる!

東洋経済オンライン / 2024年12月28日 18時0分

しかし、「推し」となると意味が違います。応援したい対象○○のことを以前は「○○推し」と言っていたものが、単独で使用されるようになったものです。人に勧めるものを「お勧め」と言いますので、「推し」自体が単独使用されても、理屈としてはおかしくないのですが、「推し」にはサブカルの香りがします。そこには、「萌え」や「映え」と共通する感覚があるように感じられます。

文化庁の2022年度の「国語に関する世論調査」によれば、全体の49.8%が使う言葉、49.2%が使わない言葉だとしており、拮抗していました。おそらく拙著が出版される時点では、使う派が過半数を占めているのではないでしょうか。

「やばい」から「えぐい」へ

➖➖姉妹でスマホを見ている。

長女:うわ、えっぐ……。

三女:本当だ。すごすぎ。

父:何がえぐいんだ?

長女:お父さん、この動画見てよ。この選手さっきから2打席連続でホームラン打ってるの。しかも2打席目はバックスクリーン直撃の弾丸ホームラン。推定飛距離、130メートルだってさ。

父:それはすごいな。それを「えぐい」って言うのか?

長女:うん、言うよ。

父:ああ、「やばい」と同じでいい意味もあるんだな。お父さんは、「えぐい」っていうと悪いイメージが先行するんだが。

長女:そうだね。確かに単純なほめ言葉だけではないけどね。「えぐい」は私的には「やばい」の一段階上を行くと思ってるよ。

三女:うちは若干引くくらいの神業とか見せられると「えぐい」って感じる。

父:たとえば?

三女:大谷翔平の活躍ぶり!

父:確かにえぐい……。

「えぐい」とは

「えぐい」という語は、山菜などを食べたときの独特の苦みのことを指す言葉です。あくが強く、口のなかに不快感がまとわりついて消えない感じです。

「えぐい」は、もともとよい意味ではなかったはずですが、そのインパクトの強さから現在では「ありえないほどすごい」という意味で使われ、「やばい」のインパクトが薄まるなかで「やばい」に取って代わりつつあります。

強調を表す形容詞の用法は世代とともに変遷します。ぞっとするという意味だった「すごい」、危機的な状況にあることを表す「やばい」、強い不快感を表す「えぐい」、いずれも否定的な意味から始まります(第1期)、それが肯定的な意味に拡張を起こし、程度の甚だしいレアなケースにたいし、強いインパクトを表すようになります(第2期)。

「えぐい」はその時期に達しているように思われます。そして、インパクトがあれば、どのような事象でも、適用できるようになります(第3期)。これが「やばい」の段階です。

そして、意味の希薄化を起こし、世代を越えて安定的に使われる段階に達します(第4期)。「すごい」はこの段階に達していると言えそうです。その後は安定した使用が続くかもしれませんし、他の形容詞の台頭による衰退や消滅が待ち受けている可能性もありそうです。

石黒 圭:国立国語研究所教授、総合研究大学院大学教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授

石黒 愛

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