「花山法皇の娘」のあまりに"壮絶すぎる最期" 恋愛に奔放だった法皇は母子と関係を持つが…
東洋経済オンライン / 2024年12月28日 7時40分
その場にあったのは、黒く長い毛髪と、血に塗れた頭部、紅色の袴だけだったといいます。この女性と「皇女」(花山法皇が中務に産ませた娘)を同一視する見解もあります。
直後に、盗人を捕らえた者には恩賞を与えるとの宣旨(天皇の命を伝える文書)が出たそうです。この事件の容疑者として浮かび上がったのは「荒三位」という人物。つまり、藤原道雅(道長の兄・道隆の孫)です。
彼は素行の悪い貴公子でした。『今昔物語集』によると、荒三位は、姫君(犬に喰われた女性)に想いを寄せますが、聞き入れてもらえなかったため、事件を起こしたのではないかとの噂があったとのこと。
同書では検非違使による捜索の結果、1人の男が捕まり、犯行を自白したことが記されています。一方、『小右記』では、隆範という僧侶が検非違使に逮捕されました。
隆範が言うには、犯人は1人ではなく、複数犯。しかし、隆範はなかなか口を割らず、尋問は難航します。そしてついに、隆範は驚くべきことを口にします。皇女の殺害は、藤原道雅の意向があったというのです。
ところが、それから3日後。皇女を殺したという盗賊の頭が自首してきます。これにより、一件落着……にしては謎が多すぎます。
まず、この自首してきた盗賊首領の名前が伝わっていないのも不自然です。皇女殺しという重罪を犯したのだから、本来は名前くらいは記されているでしょう。
理由もなく左遷された道雅
事件から2年後の1026年、道雅は理由もないのに、左近衛中将を罷免され、閑職(右京権大夫)に追いやられます。左遷です。
この左遷も、事件の影響とも言われていますが、定かではありません。そして突如、現れた謎の自白者(盗賊の首領)。彼は本当に皇女を殺害したのか。これも怪しいところです。何者かが、彼を犯人に仕立て上げ、自首させたと見たほうが自然でしょう。
皇女殺しの黒幕として浮上した藤原道雅ですが、彼に容疑がかけられたままでは、いろいろとややこしいし、仮に彼が黒幕だった場合、どのような罰をくだせばいいのか。そのような難題から逃れるため、そして事件の幕引きを早期に図るため、偽の犯人が用意されたのではないか。謎が多い「未解決事件」と言えるかもしれません。
(主要参考・引用文献一覧)
・繁田信一『殴り合う貴族たち』(柏書房、2005)
・朧谷寿『藤原道長』(ミネルヴァ書房、2007)
・倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社、2023)
濱田 浩一郎:歴史学者、作家、評論家
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