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世界を読み解くカギは「西洋哲学」の中にある 「江戸時代の日本思想」をいま再評価すべきだ

東洋経済オンライン / 2024年12月28日 18時0分

「我々西洋人は理性により進歩し、熾烈な競争に勝ち抜いてきた。植民地にされた人間たちは自分たちで文明化できなかったから、我々白人が教えなければならない。世界の文明化は白人の義務である」

こうした観念は「白人の責務」と言い、イギリスの作家ラドヤード・キプリングの詩のタイトルがもとになっています。

理性至上の西洋的価値観は限界に

ところが20世紀以降、世界には「白人の責務」に当てはまらない現実が次々と生まれてきます。日露戦争では、非西洋文明の日本に反撃を食らい、欧米にとてつもない衝撃を与えました。

ロシア革命でロシアが共産主義化し、ドイツ、イタリアではファシズムの運動が勃興し、西洋的な価値観から飛び出します。共産主義やファシズム――全体主義は、人権や個人の自由という西洋的価値観とは真逆の体制です。理性を中心に発展してきた西洋には非常に大きな不安材料だったのです。

20世紀には世界中で西洋的価値観への反逆が起こった結果、第2次世界大戦につながっていったのです。

そのため西側諸国から見れば、今でも非西洋的な日本、ロシア、ドイツが大きな脅威で、過去へのトラウマから、徹底的に抑え込んで管理したいとの思惑が透けて見えます。

現在、プーチンという指導者がロシア人に強く支持されているのは、西洋的価値観を超克し、ロシアが我が道を行くことを明確にしたからです。

だから、プーチンのロシアは西洋文明に反抗していると見なされ、西側諸国は目の敵にしているわけです。理性至上の西洋的価値観が限界を迎えつつあることが、今の世界の混乱とも関係しているのです。

「江戸時代の日本思想」を再評価すべき

歴史は起こった事実を学ぶもので、私たちは現実から出発するべきです。しかし学校の教科書ではプラトン、ルソーといった理想主義的な思想に偏りがちです。理性中心主義がもたらした現在の世界の混乱を踏まえ、現実に立脚した哲学から学ぶことが今こそ必要です。

具体的には、トマス・アクィナス、ライプニッツ、エドマンド・バークなどで、彼らの思想には東洋思想との共通性があります。また、キリスト教を批判したニーチェやアダム・スミス、カール・ポパー、ハイエクなども重要です。彼らのように、現実に根ざした哲学を展開した哲学者を見直すべきなのです。

そして、明治以降、西洋文化を取り入れる借り物文化に終始してきた日本。未来を切り開くには、日本人は、日本の歴史を踏まえた自分たちの哲学を言語化し、西洋を導く立場に立つべきです。その実現の鍵は江戸時代にあります。

『古事記』や『万葉集』を再発見した賀茂真淵や本居宣長の国学、伊藤仁斎の「仁」、荻生徂徠の政治哲学など、江戸時代に確立された独自の理論を再評価すべきです。

これらの思想が形になる寸前に明治維新で西洋思想が流入しました。しかし、そもそも西洋哲学は日本社会に根っこがないのです。そのため日本では西洋哲学は大学内の閉鎖的な議論に留まり、日本社会にまったく影響を与えていません。西洋哲学が日本社会に根付かない理由はここにあります。

今こそ日本の社会と伝統、歴史に根差した哲学を自分たちの言葉で語りましょう。西洋哲学が行き詰まったいま、日本人が世界をリードする時代はここから始まるのです。

茂木 誠:作家、予備校世界史講師、歴史系YouTuber

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