推しの「応援広告」急拡大、新宿や池袋は"聖地化" K-POPが火付け役、数値で測れない愛を伝えたい
東洋経済オンライン / 2024年12月29日 7時40分
12月某日、都内の街頭ディスプレイに、十数台のスマートフォンが一斉に向けられた。数十秒の画像が流れる間、通行人は盛り上がる女性たちを避けながら通り過ぎていった。
【写真】池袋駅の地下通路はVtuberの「応援広告ロード」として”聖地化”
これは「センイル(韓国語で誕生日)広告」の一場面だ。この日はK-POPアイドルの誕生日に合わせて、巨大な街頭ビジョンにお祝いの動画が放映された。広告枠を買って動画を流したのは、アイドルが所属する事務所ではなくファン。センイル広告が普及している韓国では、街頭ビジョンや地下鉄通路、バス停、ラッピングバス、コンビニエンスストアなど、あらゆる場所にファンが“推し”の広告を出している。
こうしたセンイル広告をファンが撮影してSNSで拡散していくことで、推しのお祝いムードは一段と高まる。数十人から資金を募ってK-POPアイドルのセンイル広告を出したことのあるファンダム(ファンたちのコミュニティ)のメンバーは「今年は韓国と日本でセンイル広告を出した。たくさんの人に認識してもらえたら、推しのブランド力が上がる」と熱く語る。
数値では測れない「愛」がある
2018年から応援広告のサービス・センイルJAPANを手がける増田雅人代表は「きっかけは、日本でも韓国のようなセンイル広告を出したいという知り合いからの相談だった」と語る。徐々にSNSなどで口コミが広がり、応援広告の出稿依頼が増えていったという。
ほどなくしてコロナ禍に突入し、韓国の男性アイドルグループ、BTSの「Dynamite」が大ヒットを記録するなどK-POPブームは過熱したが、世界中のアーティストが活動休止に追い込まれてしまった。
2021年から応援広告を出し始めた冒頭のファンダムのメンバーは「コロナ禍で、いつ推しと会えるかわからない。誰もが不安の中、ちゃんと愛していると伝えたかった。アルバムやグッズを買うといった、数値では測れない愛がある」と言い切る。SNSで応援広告の出稿を呼びかけると、多くのファンが賛同して集まったという。
新宿駅から程近い、靖国通り沿いにある大型街頭ビジョン「ユニカビジョン」。ここは応援広告のメッカとして知られ、昨年12月30日には数百人のファンが集まった。
この日は、BTSのメンバーであるVさんの誕生日だった。冬休みということもあり、コリアンタウンの新大久保から徒歩圏内のユニカビジョンには、ファンらが終日ひっきりなしに訪れ、お祝いムードに包まれた。
「応援広告を初めて扱ったのは2018年。今は月30本程度を扱っている」(ユニカ不動産事業本部デジタルソリューション部の梶田倫之次長)
ユニカビジョンでは通常広告に加え、エンタメ限定特別プランを設けている。アーティストのライブ映像などを流す特集番組で、アーティストの所属事務所とユニカが共同で流すエンタメ広告だ。
通常の広告料金30万円(15秒広告を1日72回流す)に対し、9万円と低く抑えられている。応援広告については「ファンの気持ちを表現するもので、純粋な広告とは違う」(梶田氏)と、エンタメ限定特別プランで出稿できる。
地下通路に現れた「VTuberロード」
東京メトロ池袋駅の東口側の地下通路には、VTuberの応援広告が多く掲載される「応援広告ロード」がある。さらに西口側にある東武鉄道の巨大広告枠「オレンジボード」は、満枠になるほど人気の高い応援広告スポットだ。
また、東京メトロ新宿駅から新宿三丁目にかけての地下通路も、Vtuberの誕生日などを祝う応援広告がずらりと並ぶ。SNSなどで応援広告の情報を知ったファンらが記念撮影し、さらにSNSで拡散されていく。
K-POPに端を発する応援広告は「VTuberや日本のアイ
JRや私鉄などの駅ナカや街頭ビジョンなどの広告媒体は、個人とは取引を行ってこなかった。JR系の広告代理店であるJEKIはBtoBのみの取引だったが、「4年前からBtoCの応援広告を扱い始め、2022年に正式に事業展開した」(前出の河原氏)。
当初は掲載先となる媒体に応援広告とは何かという説明から始まり、事務所の許諾が下りずに掲載できないケースも珍しくなかった。現在は認知が広がり、代理店を介せば個人でも応援広告を出稿しやすくなった。
応援広告の出稿数は増え続けており、jekiは応援広告市場規模を377億円程度と推計する(2023年度)。同社が出稿を扱った団体数(1団体が複数回出稿することもある)は2023年度が1000団体、2024年4~11月で2156団体で推移する(下図)。応援広告の平均単価は13万円程度。媒体掲載費は6万円台後半から10万円で、これに印刷費がプラスされるイメージだ。
愛情は果てしなく大きく…
VTuberなどの応援広告は個人による出稿が多い一方、K-POPはファンが集まって出稿することが多いこともあり、予算規模は桁違いだ。「350万円の予算枠で、ニューヨークのタイムズスクエアや韓国各地、日本全国に応援広告を出したこともある」(冒頭のセンイルJAPANの増田代表)。
著名アーティストに限らず、アイドルの練習生の応援広告をタイムズスクエアに流したこともあるという。ファンが推しへ注ぐ愛情は、果てしなく大きく、深いのである。
応援広告は街頭ビジョンや駅ナカ広告に限らない。読売新聞は10月から、朝刊(別刷り)に出稿できるようになった。10万部を350万円から掲載できる。航空会社スターフライヤーの機体には、74万円からラッピング広告を出すことができる。
日本の推し活市場規模は8000億円超(2023年予測、矢野経済研究所『「オタク」市場に関する調査』)と拡大基調が続く。日本のあらゆる場所で、応援広告を見る日は遠くなさそうだ。
前田 佳子:東洋経済 記者
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