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"引き出し屋"に1300万円で望みを託した母の闘い ひきこもりの息子は遠く離れた地で亡くなった

東洋経済オンライン / 2024年12月31日 8時30分

私は2010年代後半から、親が契約した引き出し屋に強引に入居させられ、逃げ出すなどしてきた当事者の取材を続けてきた。「知らない男たちが突然部屋に入ってきて、両手足を持たれた宙づり状態で自室から車に運ばれた」「従わないと“精神病院”に入れると脅された。実際に入院させられておむつを付けた状態で拘束された」「携帯電話や所持金を取り上げられた。部屋の窓も開かないなど事実上の軟禁状態だった」「研修という名目で業者の関連会社で最低賃金以下で働かされた」など被害の実態はさまざまだった。

2015年以降は被害者の一部が引き出し屋を相手取り、損害賠償を求める裁判を起こし始めた。私の取材では、このうちあけぼのばし関連の訴訟は2件。その結果、賠償が認められるケースも相次いだ。

なぜ命日すらわからない死に方をしたのか

松本さんのことに話を戻そう。熊本から戻った松本さんも裁判を起こすと決めた。あけぼのばしはすでに破産していたので、被告は元職員の男2人と、あけぼのばしの提携先である熊本の業者など。あけぼのばし側には「社会的な生活能力や心身が弱まっている悠一さんの生命身体の安全を確保する注意義務があった」などとして、2021年1月、約5000万円の損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴した。

取材の中で、松本さんが提訴後に書いたというメモを見せてくれた。そこには「命日は生きた証であり、人の尊げんです。それをないがしろにされる程悠一の命は軽かったのか」という内容が書かれていた。息子はなぜ命日すらわからない死に方をしたのか。その理由を知りたい。松本さんはその一心で法廷に通い続けた。

しかし、結果は東京地裁、高裁、最高裁ともに松本さんの敗訴。地裁判決は、被告側が履行すべき債務は悠一さんの自立を目指した指導、支援であり「自活能力を得る結果が求められているとは解されない」などと判断。悠一さんの状況についても「身体的にも精神的にも健康不安はなく、生活の基盤を確保し、収入を得て自活することができ(中略)継続的な支援が必要であったとみることは困難」とした。

一方で裁判では、職員らが作成した「報告書」が被告側から提出された。これにより、職員の筆を通した形ではあったが、悠一さんの暮らしの一端を知ることができた。警備や介護、新聞配達、林業、農業、酪農、ごみ収集――。報告書の中の悠一さんは、何かに追い立てられるようにして仕事を探しているようにもみえた。果たしてこれは本当に本人の意思だったのか。

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