「こしょう」への欲望が生んだ「株式会社の発明」 資本主義の最も重要な手法の1つだが副作用も
東洋経済オンライン / 2025年1月1日 8時0分
しかしこの経済の進歩の大きな原動力になってきたものが、近年、その妨げになっている。過去20~30年の金融の自由化により、多様な金融商品が登場した結果、株主たちはもはや法律上自分が所有している企業と長期的に関わろうとしなくなった。
例えば、英国では、株式の平均所有期間が1960年代には5年だったのが、最近は1年以下にまで短くなっている。わずか1年足らずで株式を手放す者たちが、果たしてほんとうにその会社の所有者といえるのだろうか。
落ち着きのない株主たちの気を引き留めるため、プロ経営者たちは配当や自社株買い(企業が自社の株を買って、株価を上昇させることで、株主が保有株の現金化で得することができるようにする手法)という形で、株主に利益のかなりの割合を還元している。過去20~30年のあいだに、米国と英国では、株主に還元される利益の割合が90~95%にまで高まった。
1980年代まで、その数字は50%以下だった。留保利益(つまり株主に還元されなかった利益)が企業による投資の主な元手になるので、この変化は企業が投資を行う力、とりわけ利益の回収に時間がかかる長期的な計画に投資する力を著しく弱めることになった。
有限責任という制度にも、そろそろ改革が必要なときだ。長所を保ちながら、有害な副作用を最小限に抑えられるようこの制度を変えていかなくてはならない。
第1には、有限責任の制度を株式の長期保有を促すものに変えるという方法が考えられる。例えば、株式の保有期間に比例して議決権が増える仕組みにすれば、株式を長く保有している人ほど、発言権が大きくなる。これは「テニュア方式」と呼ばれる。
この方式はすでにフランスやイタリアなど、いくつかの国で取り入れられているが、まだ本格的な導入にはほど遠い。2年以上の株主に議決権が1票追加で与えられるといった程度に留まっている。
このテニュア方式をもっと強化するべきだ。例えば、保有期間が1年増えるごとに、1株につき1票、議決権が増えるというぐらいにまでするべきではないだろうか(増えるのは1株につき最大20票までなど、上限は設けたほうがいいだろうが)。いずれにしても、なんらかの方法で、投資家の長期的な関わりに報いることが必要だ。
第2には、株主以外のステークホルダー(従業員、供給業者、地域社会など)の、経営への発言権を強め、株主の力を制限する必要がある。これは長期の株主も含めてだ。株主の問題(と強み)は、たとえ長期の株主であっても、いつでもその企業との関わりを断てる点にある。株主よりはるかに流動性の低いステークホルダーに一定の力を与えることで、企業の「所有者」とされる人たち(株主)よりも企業の将来に切実な関心を持っている人々に力を配分できる。
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