掃除機は効果ナシ「餅を詰まらせたとき」の対処法 2年間で高齢者661人が亡くなる、生存率は17%
東洋経済オンライン / 2025年1月1日 8時20分
まず、気道を展開(気道を確保して呼吸を助けるために、頭部を後ろに反らせて、下あごを上げた状態にして気道の通りをよくすること)して、目で見ながら鉗子(かんし:ものをつかむときに使う医療器具)を用いて、餅を除去する。
慣れた医師なら1分以内で処置は完了するが、病院に到着したときにはすでに手遅れのことが多く、このような処置をしても、患者の回復はあまり期待できない。
以上が、餅による窒息対策の概要だ。
実は、筆者も餅を詰まらせた患者を診たことがある。初めて経験した患者は、70代の男性だった。昔の話になるが、その光景が今も忘れられない。
筆者は医学部を卒業したあと、2年目の研修を大宮赤十字病院(現:さいたま赤十字病院)で行った。当時も今も、埼玉県は医師不足だ。医師は忙しく、当直をしていると毎晩10人以上患者がやってくる。救急車で運び込まれる患者もいる。一睡もできないことも珍しくない。
一方で、年末年始の病院はがらんとして、普段の病院とはまったく違う。入院患者の多くは外泊して、家族とともに新年を迎えるからだ。とにかく患者さんが少ないので、医師や看護師ものんびりとした気分を味わえる。筆者は、この雰囲気が好きだった。
正月の当直を迎えるにあたり、先輩医師から必ず指導されることがある。それは餅による窒息への対応だ。迅速な処置が求められるからだ。
元日の夜8時頃、救急隊から「餅による窒息で心肺停止です」と連絡があった。筆者はどう対応してよいかわからず、一緒に当直していた1年先輩の医師を呼んだ。
先輩医師は患者が救急外来に到着すると、気道確保を試み、その最中に鉗子を用いて、気道に詰まっていた餅を除去した。直径が3センチほどの小さな餅の切れ端だった。その後、心臓マッサージや点滴で血圧を上げる薬を投与したが、心拍が再開することはなかった。
こうした蘇生措置を30分ほど行ったあとに、筆者は死亡を宣告した。
患者は、正月に帰省した息子一家と夕食の最中だった。小学校1年生と幼稚園児の孫に、本格的な正月を経験させるため、祖母が手作りのお節料理を準備したそうだ。その中に餅が入っていた。
楽しい食事の最中に祖父が亡くなってしまった。同行してきた息子は落ち込み、どんな言葉をかけていいかわからなかった。
救命が難しいからこそ予防を
一度餅による窒息を起こした場合、訓練した医師がいなければ、餅を取り除いて呼吸を再開させることは難しい。そういう医師がいたとしても、高齢者では救命が難しい。
餅による窒息は予防が重要だ。高齢者の飲み込みの機能をしっかり見極めて、窒息しないような料理、食べ方を心がけてほしい。
上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長
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