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楽天が手を伸ばす「お試し割」というパンドラの箱 通信業界は嵐の前の静けさ、市場が荒れる懸念も

東洋経済オンライン / 2025年1月1日 9時30分

しかし直近では、通信品質の改善を着実に進めている。品質を評価する第三者機関、Opensignal社が2024年10月に出したレポートでは、通信規格5Gの上り・下りの速度など、全18項目のうち3項目で業界首位を獲得。エリアはまだ局所的だが、つながりやすい電波「プラチナバンド」の展開も開始した。ユーザーが気軽に品質を試せる機会を提供できれば、契約拡大の起爆剤になる可能性がある。

「お試し割引」を総務省が認めた理由

業界全体でみると、今回の制度改正は、「攻める」立場の楽天にとって、明らかに有利に働く施策といえる。それだけに、競合キャリアなどは総務省に対し、「顧客獲得競争を激化させないか継続検証が必要」「見直しは必要十分な最低限の範囲にとどめることが重要」との要望を出していた。

料金の割引を狙って消費者が次々とキャリアを乗り換える「ホッピング」と呼ばれる行為が起こる懸念もあり、有識者からは「割引期間を最長6カ月とするのは長すぎでは」との指摘が上がったが、ある競合キャリアの関係者は「最終的に、楽天側の意向が押し通される形になった」と振り返る。なぜ、総務省は思い切った制度見直しに踏み切ったのか。

総務省の報告書では、「携帯電話市場の寡占状態は継続し、通信料金の消費者物価指数が1年前と比べ10%以上上昇する状況に鑑みれば、事業者間のさらなる競争促進が重要」と指摘している。楽天の契約が急拡大中とはいえども、通信業界では依然、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社のシェアが圧倒的だ。

総務省によると、携帯電話の契約数シェアは2024年6月時点で「大手3社」が8割超を占め、キャリアから回線を借りて事業運営する格安スマホ業者(MVNO)が計15.2%、楽天は3%にとどまる。

長年、事業者間の競争を促して携帯料金低廉化を図ってきた総務省にとっては、「第4のキャリア」として成長する楽天の存在は重要性を増しているといえる。低価格プランを引っ提げてキャリアに参入した楽天は、その直後の2021年に官製値下げが進み、出鼻をくじかれる形になった。財務危機も続いてきただけに、3社による寡占市場への逆行を回避させたい総務省の思惑も透ける。

もっとも、今後は楽天だけでなく、競合3社の動向も焦点となる。

足元では、シェア低下が続いてきたドコモが反転攻勢に乗り出すなど、通信市場の競争環境は激化しつつある(詳細はこちら)。楽天が先陣を切ってお試し割引を導入した場合、そのインパクトが大きければ、対抗策を打ち出すキャリアが現れそうだ。総務省の会議でも、「楽天がお試しSIMを配り始めたら、どこかが追随して結局全社がやり合うことになると、市場が再び荒れるのでは」(野村総研の北俊一氏)との見方が出ていた。 

“チキンレース”に陥る可能性も

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