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2025年度予算「危険なデジタル投資」避ける3方法 年明けは「予算策定の最終局面」注意点は?

東洋経済オンライン / 2025年1月3日 9時30分

「基幹系システム再構築への投資」において「下手を打たない」ための方法をご紹介します(写真:metamorworks/PIXTA)

ローランド・ベルガー、KPMG FASなどでパートナーを務め、経営コンサルタントとして「40年の実績」を有し、「企業のDX支援」を多くてがけている大野隆司氏。

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この連載では大野氏が自身の経験や大手・中小企業の現状を交えながらDXの効果が出ない理由、陥りやすい失敗、DXの将来性について語る。

今回は「2025年度のデジタル投資の注意点」を解説する。

「デジタル一般人」に「デジタル投資」はわかりづらい

年が明けると、来年度予算の策定の最終局面を迎えて忙しいという方も多いと思います。

私も経営コンサルタントという仕事柄、秋口から1月の間には「来年度予算」に関する相談が増えるのですが、デジタル投資については毎年必ず話題に上ります。

特に予算策定を司る経営企画部門から「(予算申請されたデジタル投資は)本当に必要なのか?」「こんなに巨額が必要なのか?(もっと安く済む方法はないのか?)」といった質問を受けることがよくあります。

こうした質問は20年以上前からあったものですが、DXの流行に合わせて増加している感はあります。また、俎上に上がる金額も年々大きくなっています。

経営管理部門の人たちもそうですが、DX支援などを生業としていない「デジタル一般人」にとって、「デジタル投資」はわかりづらいのでしょう。

とはいうものの、在庫適正化や納期短縮のためのサプライチェーンマネジメント(SCM)システム、販売の新チャネルとしてのECのシステムといった「ビジネス側のリクエスト」から始まるデジタル投資の必要性については、一般人でも理解しやすいと思います。

悩ましいのは、その企業の業務内容に直接かかわる「基幹系システムの再構築や刷新」です。基幹系システムとは財務会計システムをはじめとした、販売管理、発注管理、在庫管理などのシステムです。

これらの再構築や刷新にあたっては、その必要性はもちろんのこと、なによりも投資額が巨額になるため、投資可否の判断に悩むのも当然だと思います。

「基幹系システムの再構築」で下手を打たないために

今回は「基幹系システムの再構築への投資」において「下手を打たない」ための方法を3つ述べてみます。

失敗しないポイント①問題がないなら、無理に「再構築」せず使い続ける

「巨額の投資をしてまで基幹系システムの再構築が必要なのか?」「これまでも問題なく動いているのならば、それでいいじゃないか?」という疑問が「デジタル一般人」から出るのは、当然といえば当然です。

基幹系システム再構築の予算申請での「必要性や理由」は、どの企業でも似たようなものです。

「業務効率化やデータ統合を進めたく、そのために基幹系システムを刷新したい」「業務効率化によるコストの削減を狙う『守りのDX』を推進するためには再構築が必要」といったものです。

以前の記事(100億かけても「DXの効果が全然出ない」3つの訳)で述べたように、これらの業務効率化やデータ統合において、ボトムラインへの効果を出すためには、同時に新事業の進出をしないかぎり、かなり難しいのが実情です。

業務効率化によって、確実にボトムラインに効果が期待できるのは、BPO事業者くらいのもので、それ以外は詭弁と言われてもしかたない状況です(少ないですがもちろん例外企業はありますが)。

こんなことを経営と議論していますと、「それでは、今のものをそのまま使い続けるのもありですね」ということになってきますが、これが第一の方法です。

特に問題がなければ、そのままでいいのです。

しかし、ここで一件落着とはならないことも、また多いのです。

「ソフトウェアのサポート切れでバージョンアップが必要というのが、どうも再構築の本当の理由にも思える」「(巨額の)投資を正当化するための方便で、(CIOは)『守りのDX』をくっつけているだけじゃないのか?」という話題へと、かなりの頻度で展開していきます。

このバージョンアップは、一般人には地味に見えますが、実はかなり対応に注意が必要となるトピックです。

「ソフトウェアのバージョンアップ」とは?

基幹系システムはパッケージ・ソフトウェアを用いて構築されることが主流です。

なかでもSAP社のERPが世界で最大のシェアを有しており、国内でも大企業中心に2000社が導入しています。

ソフトウェアには(Windowsでご存じのように)サポートの期限があり、バージョンアップをすることが強く推奨されます。

ただ、期限が切れたからすぐに停止するわけでもありませんし、なによりも巨額の投資を伴うために、投資承認の獲得に悩む情報システム部門(そしてそれを支援するシステム会社やITコンサルタント)も少なくないといった状況です。

2017年(2025年の崖のレポートの1年前です)にSAPジャパン社が「現行バージョンのサポートは2025年で終了」と発表しました。

これにより、2025年までにSAPのERPを用いた基幹系システムのバージョンアップをしなければならないという認識が、デジタル・IT関係者の間で形成されました(その後、すべてのバージョンではありませんが、サポートの終了年の2027年までの延期、追加料金により30年までの延長が発表されています)。

SAPの新バージョンの「S4/HANA」へのバージョンアップには、100億円を超える予算が必要になることも珍しくはありません。

ちなみに2024年4月にシステム障害を起こした江崎グリコも、これへのバージョンアップでした。

失敗しないポイント②むやみやたらに「バージョンアップ」しない

予算申請などでも「(バージョンアップ)しなければならない」とされることが多い(ほとんどです)ものですが、これは嘘とまでは言いませんが、誤認あるいは無知の罪といった面があるのも事実です。

というのは、現行のソフトウェアのサポート期限後も、バージョンアップせずに使い続ける「第三者保守サービスの利用」という方法もあるからです。その場合は当然ながら巨額のデジタル投資は必要ありません。

これが第二の方法です。

これは、SAP社やオラクル社やマイクロソフト社などの企業で多く利用されているソフトウェア会社とのサポートの契約をとめて、「第三者保守」といわれるサービスを専業とする会社にサポートを委ねるというものです。

SAPをはじめとした有名ソフトウェアの第三者保守を手がけている業界最大手のリミニストリート社は、世界では大手企業を中心に5800社以上がサービスを利用しており、サービス・信頼性もこなれている認識です。

「デジタルを過度に避けてしまう」こともよくない

失敗しないポイント③投資の「CIO枠・情シス枠」をなくす

成長への貢献が曖昧なデジタル投資は避けることが賢明ですが、いっぽうで「デジタルはよくわからないし、リスクも高そうだから投資しない」というようにデジタルを過度に避けてしまうことも、よくありません。

こう考えていくと、デジタル投資を、独立した投資案件の候補として検討の俎上に「載せない」ことが「第三の方法」として出てきます。

多くの企業で見られる「CIO分」「情報システム部門分」「DX分」といった予算枠を設定しない・予算を確保しないということです。

たとえば、新事業を立ち上げるのに必要となる投資は、販売・流通拠点の設立・整備、広告やキャンペーン、人員の採用などで構成されますが、これと同列にデジタル投資を位置づけるということです。基幹系システムであっても、この例外ではありません。

こうしておけば、(新事業などの)投資の要不要・過剰過少の検討を行えばよいだけになってきますので、ビジネス的にもわかりやすくすることができます。

これによって「このデジタル投資は何のため? どのくらい成長に貢献するの?」という問いが、予算策定の業務や、投資の承認会議などから消えていくことになり、まさにそれは理想の姿と言うこともできるでしょう。

「成長シナリオがゆるい巨額投資」はきつい目にあう

こう言いましても、「基幹系システムは他のシステムと違うのだ。事業や成長と強く結びつけて投資検討すべきものではない」という意見もあるでしょう。

CIO、情報システム部門、出入りのシステム会社やITコンサルタントからの反発もあるかもしれません。しかし経営として大事なことは、(第一、第二の方法も含めて)、成長への寄与があいまいな大規模投資が不要になったという話だけではありません。

それに投資するはずだった予算を、他の投資候補に回すことができるようになるという点こそが、より重要なのです。

デジタルが消費した投資分は、たとえば自己株買いや配当には回らないという事実です。

デジタル投資の成長へのシナリオが弱い限り、アクティビストなどの株主、議決権行使助言会社などからの、指摘をうけやすくなることを念頭におくべきでしょう。

このようなリスクを避けて、2025年度こそ「うまいデジタル投資」を予算策定で実現することを試してみるのもよいのではないでしょうか。

大野 隆司:経営コンサルタント、ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループ合同会社代表

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