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「情報を手放して仮説を立てる」が現代で有効な訳 データを入手すると何かを得た気になるだけで終わる

東洋経済オンライン / 2025年1月4日 14時0分

データという手触りのあるものが手に入ると、それで、何かを得た気になり、安心してしまう(写真:kou/PIXTA)

『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』はじめ、編集者として数々のヒット作を生み出してきた佐渡島庸平氏は、「仮説は最強の道具」だと説きます。本稿では、同氏の最新著書『観察力を高める 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』より一部抜粋のうえ、観察力の鍛え方をご紹介します。

偉大な発見の「はじめの一歩」はシンプルな問いだった

観察をしようとするとき、「認知バイアス」「身体・感情」「(時空間の)コンテクスト」が観察を邪魔する。僕はそれらをまとめて、「メガネ」と呼んでいる。人は「メガネ」をかけてしか対象を観られないのであれば、そのメガネを意識的にかけかえればいい。

その「意識的なメガネ」というのが「仮説」だ。観察とは、仮説と対象のズレを見る行為だ。古代ギリシアの哲学者ゼノンが提示したパラドックス、「アキレスと亀」の中で、俊足の英雄・アキレスはどんなに頑張っても一生、亀に追いつけない。

アキレスがその地点に着いたときに、亀はそこからほんの少し進んでいるからだ。このように仮説と対象はぴたりと一致することがない。限りなく近づくけれど、仮説と対象はどこまでもズレている。

いい観察が行われると、問いが生まれ、その問いから仮説が生まれる。そして、次の新しい観察が始まる。その繰り返しによって、対象への解像度は上がっていく。

ニュートンが、リンゴの落下から万有引力を導き出したというエピソードを、なぜ僕は伝説などではなく、真実だと思えるのかの理由もここにある。

はじめは、「なぜリンゴは地面に落ちるのだろう?」という子どもでも思いつきそうなとてもシンプルな問いが生まれる。そこから「地面がリンゴをひっぱっているのでは?」というラフな仮説になり、観察が始まる。さらに観察は新たな問いを生み出し、仮説がどんどん更新される。そして最終的には「万有引力の法則」という世紀の発見へとつながったのだと僕は想像する。

人類の偉大な発見の「はじめの一歩」は、本当にシンプルな問いだったのだと思う。いきなり偉大な問いを見つけて、人生をかけて取り組むのだと思うと、多くの人は自分の手元には、そんな問いがないと絶望することになる。そうではなく、誰にでも思いつくようなありふれた問いを、仮説と観察によって、研ぎ澄ましていくのだ。

「仮説→観察→問い」のサイクルを回す

僕は自著『ぼくらの仮説が世界をつくる』で、仮説から思考を始めることを主張した。2020年に、安斎勇樹さん・塩瀬隆之さんの『問いのデザイン』が刊行され、ベストセラーになった。タイトルの通り、どのようにすれば良い問いをデザインできるのかについて書かれた良書だ。「問い・仮説・観察」の3つがグルグル回っている。

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