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神奈川県愛川町のペルー料理が愛される深い事情 県内で最も「外国籍住民の割合」が高い自治体

東洋経済オンライン / 2025年1月7日 9時30分

終戦後、飛行場は農地となったが、1960年代半ばに工業団地が造成され、いまや多くの外国人労働者を引き寄せる多国籍・多文化の町となった。町内を歩けば、各国料理の飲食店はもとより、海外食材店やベトナム寺院など、異国の風景に出くわすことも多い。

ファンルイスさんも、そこに"引き寄せられた"ひとりだった。

工場労働者は「がっつりなメシ」を欲した

金属加工の工場で働き、金を貯めて店をオープンさせたのは2001年。ただし、最初は沖縄そばの店だった。

「ペルーにいた頃から沖縄そばに親しんできた。昔から飲食店を開くならば、沖縄そばの店にしたいと考えていたんです」

ルーツにこだわったというよりも、沖縄そばは、ファンルイスさんの体の一部ともいうべき存在だったのである。

実際、開業したら、同地域では初の沖縄そば店ということもあり、客足は悪くなかった。デカセギ労働者の中には沖縄ルーツの人も少なくないのだ。だが結局、ペルー料理店に衣替えしたのは、客がそれを望んだからでもある。

「ペルーの料理はないの?」

ペルー人の客は、店主が同郷であることを知ると、必ずそう聞いてきた。体力勝負の工場労働者は、見た目もボリュームも「がっつりなメシを欲した」のであった。

ペルー料理のブラッシュアップに大きく貢献したのは、前出・息子の安彦さんである。

安彦さんもペルー生まれではあるが、父親と一緒に渡日したのは1歳の頃。前述したように沖縄で過ごしたのち、愛川で中学、高校に通った。その後、調理師専門学校で学び、県内のイタリア料理店で8年間働いたのち、「TIKI」の店主を父親から継いだ。

移民の町で、移民が腕を振るう移民の料理

本格的に料理を学んだ安彦さんは、「がっつり」なメシにも、実は繊細ともいうべき気配りも加えている。

たとえば主菜に添えられたライス。定食特有の豪快な見栄えではあるのだが、どことなく香ばしい。

実は米を炊く際、適量のニンニクと塩を加えているのだという。これがまた、濃厚な肉の味を引き立てるのだ。

さらには牛肉のパクチー煮込み(セコ・デ・レス)などの「がっつり」な一品から、野菜スープ、鶏肉のクリーム煮など、どれもがまさに「いいとこ取り」の味わい。つまり、ペルー料理の特徴ともいえる食文化の融合を感じ取ることができるのだ。また、同店の料理には「アヒ・ワカタイ」と呼ばれる唐辛子ソースがトッピングで用意されているので、"味変"の楽しさもある。

地元ペルー人の胃袋として知られる同店だが、近隣の米軍基地からはヒスパニック系の人々が、そして南米の味を好む日本人が各地から駆けつける。

店内にはアンデス文明をモチーフとした壁掛けや人形、絵画が並ぶ。目と舌で、私たちはペルーと出会う。沖縄から始まった内間さん一家の長い旅路を思う。

移民の町で、移民が腕を振るう移民の料理。口の中で多様性が広がる。

そう、多様性はおいしい。

安田 浩一:ノンフィクションライター

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