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働く人は誰もが知るべき「比較優位」という重要概念 交易が経済発展をもたらしたのには理由がある

東洋経済オンライン / 2025年1月8日 11時0分

現代でも、中央銀行の金庫室に金が保管されていることがある。その金は売却されても、たいていは電子台帳に変更が加えられるだけで、金塊が運び出されたりはしない。ヤップ島の人たちはこれを聞いたら、きっと自分たちのやり方と同じだと思うだろう。

石貨であれ、硬貨であれ、この時代の貨幣に共通するのは、貨幣そのものに価値があることだった。商人が約束手形を発行する例もあったが、貨幣には貴重な素材が使われていた。

それが変わったのは、西暦1000年頃、中国で世界初の紙の貨幣が発行されたときだ。その貨幣はそれ自体に価値はないが、価値を保証されている紙片だった。

交易の増大と「比較優位」

経済的な発展のもうひとつの側面は、地域間の交易の増大だ。社会内の分業化は新しい商品(服や道具など)の生産につながった。

これが次に社会間の分業化につながり、それが交易の土台になった。相対的に優れたモノやサービスを提供できれば、その社会は交易から利益を上げることができる。

なぜここで単に「優れた」といわず、「相対的に優れた」というのか、気になったかたもいるだろう。このことを説明するため、ここでまた分業化の話に戻ろう。

例えば、村でいちばん腕のいい陶工が、パン職人としても村でいちばん腕がよかったとしよう。

この人物が村で2番めに腕のいい陶工よりは10倍優秀だが、村で2番めに腕のいいパン職人よりは2倍しか優秀ではない場合を想像してほしい。

そのような場合、村全体の生産量が最も増えるのは、この人物がもっぱら陶器を作ることに専念して、パンはほかのパン職人から買うときなのだ。

シルクロード交易における「比較優位」

この陶工についていえることは、国や都市や地域にも当てはまる。

古代中国では絹と金のどちらも古代ローマより安く生産できたが、例えば、絹の生産効率の高さはローマの10倍、金の生産効率の高さはわずか2倍だったとしよう。その場合、中国の立場では、絹を輸出して、金を輸入するのが理にかなっている。

シルクロード交易は相対的な優位さ(「比較優位」という)を活かしたものであり、絶対的な優位さにもとづくものではなかった。

たとえある国がすべてのものを隣国より効率よく生産できたとしても、すべてを国内で生産するより、交易をしたほうが利益は大きくなる。

ただし、砂利のように重くて価値の低いものに関しては、現代の社会でも、輸入しないほうがいい理由がある。ものの価値に比べて、輸送コストが高ければ、交易はかえって不経済になる。

車輪の発明後も、道は悪路ばかりだったので、たいていは馬や駱駝(らくだ)の背に載せて運ぶほうが荷車で運ぶよりも容易だった。

その結果、陸路の交易で商われるのは、ワインやオリーブ油、宝石、貴金属、香辛料といったものに限られていた。西暦300年頃、荷馬車1台分の小麦の値段は、輸送距離500キロで2倍になった。

(翻訳:黒輪篤嗣)

アンドリュー・リー:オーストラリア国立大学経済学部元教授、オーストラリア代議院(下院)議員

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