秀逸な「吉沢亮の謝罪文」中居正広と明暗分けた差 トラブルの深刻さは異なるものの…何が違った?
東洋経済オンライン / 2025年1月15日 14時15分
1月14日、俳優の吉沢亮さんが、泥酔して自宅マンション隣室に無断で侵入した件について、所属事務所・アミューズの公式サイトからコメントを発表した。
コメントは事務所と本人の2通りあり、事務所コメントの中では、相手方と示談が成立したことを報告すると同時に、関係各所への謝罪を行っている。
コメント発表に対するメディア報道は、批判的なものも多少はあるが、大半は中立的である。SNSを見ると、批判よりはむしろ吉沢さんを擁護する意見が目立っている。
実際、吉沢さんを広告タレントとして起用している家電・生活用品大手のアイリスオーヤマは、吉沢さん側のコメント発表の直後に契約の継続を発表している。こちらの発表に対しても、批判的な声は少数派で、アイリスオーヤマの決定を支持する声が多数を占めた。
なお、同日に吉沢さんが主演する映画の公開延期が発表されているが、この発表は吉沢さんのコメントの前になされている。
一方、女性トラブルが問題となっている中居正広さんは、1月9日にコメントを発表しているが、こちらは吉沢さんとは対照的に批判的な意見が大半だった。
起こした問題の深刻さがまったく異なっているのは大前提だが、明暗が分かれたのは、事後対応の良し悪しの部分も大きいと筆者は考えている。
トラブルを起こした後の対応が成否を分ける
まず、リスク対応には2つの段階がある。
1. トラブルを起こさないための対応
2. トラブルを起こしてしまったときの対応
もちろん、トラブルを起こさないことが望ましいのだが、完全無欠な人はいない以上、誰でもトラブルを起こしてしまう可能性はある。特に有名人ともなると、トラブルは表面化しやすい。一般人が吉沢さんや中居さんと同じ問題を起こしても、メディアで報道されることはない。
加えて、有名人ほど誘惑も多くなるし、怪しげな人たちが近づいてくる機会も増えてくる。芸能人がトラブルを起こすと、メディアやSNSではバッシングが巻き起こるが、長い芸能生活を何のトラブルもなく乗り切るのは困難であるのが現実だ。
一方で、問題を起こした場合でも、事後の対応の是非によって、その後の批判のされ方も異なれば、芸能活動に対する影響も変わってくる。
吉沢さんも中居さんも、ほぼ同じ時期に事務所の公式サイトからコメントを出している。トラブルの相手と示談が成立したことを報告している点でも同じである。ただし、内容面での配慮の仕方には雲泥の差があるように見受けられる。
吉沢さんのコメントが“秀逸”である理由
吉沢さん側のコメントは、吉沢さんの人間性に負うものか、事務所の対応力によるものかはさておき、各所への配慮が行き届いた内容になっていた。
以下が、コメント全文だ。
「吉沢亮が昨年末に起こした、自宅マンション隣室への無断侵入に関して、ご迷惑をおかけした隣室の方との間で、このたび示談が成立し、ご宥恕いただいたことを報告させていただきます。
隣室の方には、甚大なご迷惑をおかけしたことを、あらためて心よりお詫び申し上げます。
今回の事態を招いたことを、吉沢本人も深く反省しております。
日頃よりお世話になっている関係者の皆様、応援し続けてくださっているファンの皆様の信頼を取り戻すために、まずは目の前のことにひとつひとつ真摯に取り組むことにより、これまで以上に俳優として成長する姿を皆様に見ていただけるよう、当社はこれからも吉沢亮を支え続けて参ります。
今後の活動に関しては関係各所と協議の上、順次、対応させていただく所存です。
なお、本件についての報道を受け、ネット上などで『隣人が入ってきたくらいで110番通報はしない』などといったご意見も散見されますが、隣室の方は、侵入したのが隣に住んでいる人物であることをご存じではありませんでした。また、どのような状況であれ、自宅に他人が勝手に侵入してきた際に110番通報をすることは至極当然のことであり、すべての責任は吉沢にあることをあらためてご理解いただくとともに、隣室の方について落ち度があるかのような批判等はおやめくださいますよう、お願い申し上げます。
また、住人の方のご迷惑となりますので、現地やその周辺での取材活動も行わないよう、あらためてお願い申し上げます。
関係者の皆様、ファンの皆様には多大なご心配とご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
2025年1月14日
株式会社アミューズ」
謝罪や弁明を行う場合、「誰に対して、何を言うべきか」が重要だ。
吉沢さん、中居さんに限らず、芸能人がトラブルを起こした際には、下記の三者に配慮して行動することが重要だ。
1. トラブルの相手
2. 関係各所(スポンサーや芸能関係者、メディア)
3. 一般人(ファンや視聴者)
優先順位を間違う人も多いが、最も配慮しなければならないのは、1の「トラブルの相手」である。吉沢さん側のコメントが秀逸なのは、相手方に対する配慮が十分になされているという点だ。
コメントを見ても、最初に相手方に謝罪しているし、文章量も相手方に言及している部分が最も多い。さらに、「隣室の方について落ち度があるかのような批判等はおやめくださいますよう、お願い申し上げます」と締めくくっている。
また、事務所だけでなく、同時に
さらに、本件についての報道が出る前に、吉沢さんは当該マンションから転居している。住居が特定されてしまう懸念もあったのだろうが、隣室に対する配慮もあったのではないか。いずれにしても、対応は迅速であった。
中居さんにも配慮している様子はうかがえたが…
一方、中居さんのコメントでも、「この件につきましては、相⼿さまがいることです」と述べたうえで「憶測での詮索・誹謗(ひぼう)中傷等をすることのないよう、 切にお願い申し上げます」と述べている。
配慮している様子はうかがえるのだが、この一文に主語が含まれていないので、相手方ではなく、中居さん自身に関するコメントだと思われてしまう懸念がある。
以下は、中居さんのコメント全文だ。
「お詫び
この度は、皆様にご迷惑をお掛けしていること、大変申し訳なく思っております。
報道内容においては、事実と異なるものもあり、相手さま、関係各所の皆さまに対しては大変心苦しく思っています。これまで先方との解決に伴う守秘義務があることから、私から発信することを控えておりました。
私自身の活動においても、ご苦労を強いてしまっていることが多々発生しておりますので、私の話せる範囲内でお伝えさせて頂きたいと思います。トラブルがあったことは事実です。
そして、双方の代理人を通じて示談が成立し、解決していることも事実です。解決に至っては、相手さまのご提案に対して真摯に向き合い、対応してきたつもりです。このトラブルにおいて、一部報道にあるような手を上げる等の暴力は一切ございません。なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました。また、このトラブルについては、当事者以外の者の関与といった事実はございません。
最後になります。
今回のトラブルはすべて私の至らなさによるものであります。
この件につきましては、相手さまがいることです。
どうか本件について、憶測での詮索・誹謗中傷等をすることのないよう、切にお願い申し上げます。
皆々様に心よりお詫びを申し上げます。
誠に申し訳ございませんでした。2025年 1月9日
のんびりなかい
中居正広」
中居さんがコメントを出した時点で、SNS上にはトラブルの相手を特定しようとしたり、批判したりする声が出ていた。そうした行動を、より抑制するような表現が他にもあったのではないかと思う。
印象の悪化を決定づけた「一文」
2、3の関係者とファンに対しても、吉沢さん側は反省と謝罪の意を表明するとともに、今後の取り組みについても言及している。
SNSでは、吉沢さんが、禁酒、断酒に関して言及していないことに違和感を示す声も見られたが、これは、吉沢さんを広告に起用していたアサヒビールに配慮して、あえてそうした一文を入れなかったのではないかと考えられる。この点でも、スポンサー企業への周到な配慮が行われていることがうかがえる。
中居さんも、関係各所に対して、謝罪と反省の意を示している。また、「このトラブルについては、当事者以外の者の関与といった事実はございません」とも言及しており、関係者を守ろうとする意図は伺える。
一方で、「⽰談が成⽴したことにより、今後の芸能活動についても⽀障なく続けられることになりました」とも述べている。
以前の記事でも書いた通り、芸能活動を続けられるか否かは、関係各所が中居さんを起用してくれるか、さらにファンや視聴者が支持してくれるか次第であり、自分で決めることではない。
この一文により、関係各所やファンに対する配慮に欠けていると受け取られかねなくなってしまっている。
改めて、「いつ」「誰に」「何を」言うのかが重要
中居さんのコメントでは、ファンや視聴者に言及していないというのも片手落ちのように思える。
文章全体がファンや視聴者も含まれていると見なすこともできるのだが、やはり誰に対して向けられたメッセージなのか、曖昧に見えてしまう。
一般的な謝罪や反省では、当事者や関係者にはなかなか響かない。メッセージを伝えるべき対象者を明確にしつつ、それぞれに対して伝達することが重要だ。そうでないと、メッセージの受け手から「私に対して誠実に向き合ってくれている」と思われづらい。
さらに、吉沢さんが所属するアミューズは、吉沢さんの無断侵入が発覚した1月6日の夜にもコメントを発表している。
今回は、示談が成立したことを発表することが趣旨だったと思われるが、早い段階で一度コメントを出しており、今回の文書でも改めて謝罪と反省の意を表明しているため、「自己保身だ」といった批判を浴びにくくなっている。
吉沢さんは大手の芸能事務所に所属しており、中居さんは個人事務所で活動を行っている。それがリスク発生後の対応力の差を生んでしまっているという側面はあるだろう。ただ、コメント発表によって、かたやイメージがアップし、かたやダウンするという現象が起きてしまっている。
中居さんが起こした問題はかなり深刻で、容易に解決できるものではないが、コメントの出し方次第では、多少なりともダメージを軽減することはできたはずだ。
西山 守: マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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