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「ハイエクとケインズ」不況に対する相反する見方 まったく対照的だった経済学者の巨人の素顔

東洋経済オンライン / 2025年1月16日 12時0分

ふたりは私生活の面でも対照的だった。ハイエクは厳格な人柄で、オーストリアが戦争に敗れ、経済的に苦しんでいた時代に、冷淡な両親に育てられた。そのせいか愛想がなく、人と打ち解けなかった。ある伝記によると、親しい友人は生涯で3人しかいなかったという。

一方、ケインズは自信に満ちあふれていた。経済学の勉強は空き時間にする程度で、ある試験で赤点を取ったときには誇らしげに次のようにいった。「出題者はぼくよりもはるかに経済学のことを知らないようだ」。

ケインズはピカソやルノワールやマティスの収集家でもあり、大金持ちの投資家だった。性交渉の日記もつけていた。

その日記には、1909年に65人、1910年に26人、1911年に39人といった具合におおぜいの男や女との性交渉の記録が綴(つづ)られている。

実際、ケインズの柔軟な精神やリベラルな世界観は彼の趣味の幅広さに支えられていたものだったといえるかもしれない。人づきあいにも長け、妻リディアとともに、英国の作家や画家の集まりであるブルームズベリー・グループの一員だった。

同グループのメンバーだった小説家バージニア・ウルフはケインズを「突き出た真っ赤な唇」と「小さな両の目」をした「二重顎」の「満腹のアザラシ」と評している。

ケインズはコスモポリタンであり、楽天家であり、自信家だった。20世紀初頭の世界で経済学者として絶大な影響力を誇ったのには、そういった資質も役立っていた。

ケインズとハイエクの違いをラップバトルの形で表現したおもしろい動画作品がある。制作したのは映像プロデューサーのジョン・パポラと経済学者のラッセル・ロバーツで、次のようなかけ合いが繰り広げられている。

おれたち、一進一退の攻防、この百年間
[ケインズ]おれは市場を操りたい
[ハイエク]おれは市場を自由にしたい
好況と不況のサイクルは確かに存在し、恐れるのはもっともだ
[ハイエク]悪いのは、低金利
[ケインズ]いやいや、違う、悪いのはアニマルスピリッツ

ケインジアンの考えでは、不況は自然災害のようなものとされた。それはわたしたちの誰もが被害者になりうるものだった。

今日の経済学への2人の影響

現代の政策立案者はたいがいケインジアンだ(ただし、政府がどれほどの規模の対策を取るべきかに関しては、意見が分かれる)。

ハイエクに対しては次のような批判がなされた。ハイエクの不況に対する態度は「凍った池に落ちて凍えている酔っ払いに対して、酔って熱くなりすぎたのがそもそもの原因なのだからといって、体を温めるための毛布と酒を与えるのを拒むのと同じぐらい不適切である」。

ハイエクが今日の主流派の経済学に影響を与えているのは、景気循環に関する見解を通じてではなく、市場では個人がそれぞれの利益を追求することでおのずと秩序が生まれると説く、市場の「見えざる手」についての論述を通じてだ。

(翻訳:黒輪篤嗣)

アンドリュー・リー:オーストラリア国立大学経済学部元教授、オーストラリア代議院(下院)議員

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