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ニューヨークの死体調査官が容疑者に抱いた感情 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」

東洋経済オンライン / 2025年1月18日 15時1分

こんな事態が起きるまでの経緯が、わたしには予想がついた。ジョハリスと同じような年頃の時、わたしはバーで年上の男と出会った。あごのラインがくっきりとして、自信に満ちた大学生だった。彼はいろんな質問をしながら、笑みを浮かべ、わたしの腕にそっと触れ、わたしだけをじっと見ていた──肉食系の魅力といったところか。わたしには手の届かないような人だったので、彼が飲み物をおごってくれた時には驚いたぐらいだった。人気者の女の子たちがわたしにほほ笑みかけるのを見て、まるでわたしを仲間と認めてもらえたのだと錯覚したほどだ。そんなはずはないのに。なにしろわたしは年齢を偽り、ウィージャンズの模造品を履いていたのだから。心の奥底に漠然とした違和感があったが、それを脇へ押しやって、その瞬間を楽しんだ。

彼はわたしに電話番号を尋ね、いつか一緒に出かけようと言った。わたしは何も期待していなかった。「いつか」と言われたことは前にもあったからだ。とはいえ、彼が電話をくれるかもしれないとか、あんな人と付き合えるかもしれないと想像してわくわくした。友人に彼のことを訊かれて初めて、彼のファーストネームと年齢しか知らないことに気づいた。でも、礼儀正しい人だからそんなものだろうと思い直した。礼儀正しい人は自分のことをあれこれ話さないと、どこかで読んだことがあったのだ。

だが、彼は電話をくれて、二人でドライブインシアターに行くことになった。彼はポップコーンを食べたいかと訊いてくれたし、ビールもくれた。後部座席にあったクーラーボックスから、ビールを二缶取って前の座席に戻ってきた。ジェームズ・ボンドの映画を見ながら彼が二缶とも飲み、映画の中で誰かが徹底的にやっつけられると、歓声を上げてくすくす笑った。彼は再び後ろからビールを数缶取って戻って来ると、ベンチシートの上でこちら側に身を寄せ、わたしの身体に腕をまわした。彼の息から漂ってくる、あのおなじみのビールのにおいが好きだった。彼は数回わたしにキスして、スクリーンに顔を戻した。彼のきめの粗いあごひげが顔に当たってちょっとチクチクした。

幸運に恵まれない人

しばらくすると、わたしたちは本格的にいちゃつき始めた。彼は激しくキスして、わたしの口をこじ開けた。わたしはそれが嫌で口を閉じようとしたが、彼は譲らなかった。突然、彼がわたしの腰のくびれに手を滑らせて腰を持ち上げつつ、わたしの両肩をシートに押し倒して、わたしの上に覆い被さった。彼の体重がのしかかり、身動きが取れなくなったわたしをよそに、彼は腰を激しく動かしてわたしに押しつけ、手でわたしのブラウスをたくし上げてブラジャーを引っ張り、両膝でわたしの脚を押し広げた。すべてが一瞬の出来事で、わたしは混乱して固唾をのんだ。一体何が起きたの? 歯を強く押しつけられたために唇が腫れ上がり、ごわごわしたあごひげでこすられたために顔がヒリヒリしていた。わたしは起き上がろう、彼を押しのけようともがいた。やめて、やめて。彼は「いいだろ、なあ」とささやき、わたしのズボンを引っ張った。彼の大きな身体に埋もれてパニックになった。叫ぼうとしたが、口が彼の唇で塞がれていた。両手で彼を押しのけようとして、腕を後ろに振りまわした時に、手がドアハンドルに当たった。なんという幸運だ。ハンドルを力一杯引っ張ると、ドアが突然開いた。

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