大河「べらぼう」に続「虎に翼」を期待する理由 朝ドラ好きで大河が苦手な私の感じた魅力
東洋経済オンライン / 2025年1月19日 9時0分
――大河ドラマで吉原を掘り下げるってすごいことですよね。きれいな女性が大勢いて表向きは華やかだけれど、身売りされた女性たちが男性に体を売っている世界。そこでの人間模様を描くわけですから。
そして脚本家の森下佳子自身の言葉。
――蔦重が育ち愛着も持っていただろう吉原は、今の価値観からするとさまざまな意見が出る場所です。でも、その『非』について語り尽くされた今も、似た状況を全くなくせていないのが私たちの現実。(中略)見守ることで見えてくる人や社会のどうしようもなさ。その中で、皆何を考えどう生きたか。そんな事も少し伝わればいいと思っています。
そう、私が今回期待するのは「吉原を舞台とした攻めた大河」などの表面的なものではなく、森下佳子の言う「似た状況を全くなくせていないのが私たちの現実」につながる本質的に新しい大河である。言い換えると、令和の「私たちの現実」につながる「人や社会のどうしようもなさ」の描出だ。
森下佳子はこうも語っている。
――蔦重が体験していることは、今の私たちと変わりがないのではないかと感じます。合戦がなくなって、戦っているものと言えば、お金や地位、見栄、承認欲求といったこと。噴火や冷害など災害が多かったところも似ています。
江戸時代中期と令和をつなぐ大河になれるか。「吉原は可哀想だねぇ」「昔はひどかったねぇ」ではなく、「これってまるっきり今の話じゃないか」にまで駒を進められるかどうかが問われていると思う。
「朝ドラ党」として期待すること
もし、そんな「現代的」な大河になるのなら、「朝ドラ党」としては、あの『虎に翼』に重ね合わせて見ることもできるだろう。
女性差別を底辺に置き、令和にも通じる在日コリアンや障害者、LGBTの差別を取り上げ、昭和を通して令和を浮かび上がらせることに成功した朝ドラ。
『虎に翼』の脚本家・吉田恵里香と元厚生労働次官・村木厚子による、1月8日の東京新聞朝刊に掲載された対談(必読)の中で吉田はこう語っている。
村木 怒りが原動力になること、ないですか。
吉田 怒りを熟成させておいて、エンターテインメントの作品で使おうと考えますね。
そう、吉田恵里香の「怒り」が『虎に翼』に結晶した。大河よりもハードルが高いであろう朝ドラでも、あれほどの純度で結晶させることができた。
であれば、『べらぼう』には「似た状況を全くなくせていないのが私たちの現実」に対する森下佳子の思いが結晶してほしい。
花魁・女郎の言葉が、追いやられている令和の人々の叫びに聞こえてくるか。そして、吉原の女性を救うために駆け回る蔦重が、そんな令和の人々に「べらぼう」な解放感を与えることができるか――。
吉原を大河ドラマで描く本質的な意味
江戸時代中期と令和をつなぐこと、吉原を単に吉原ではなく、令和にも通じる「人や社会のどうしようもなさ」の吹きだまりとして描くこと。それこそが『べらぼう』に期待する本質的な新しさだと思うのだ。そして、それでこそ、吉原を描く意味と価値が横溢する。
というわけで、「朝ドラ党」として感じた『べらぼう』の魅力、そして期待を述べてみたが、どういう結果に転ぶかは、正直、まだわからない。
万が一の場合、小芝風花にはNHK大阪制作朝ドラのヒロインになっていただき、「べらぼうめ!」ではなく「アホちゃうか!」とたんかを切って、うっぷんを晴らしてほしい。
スージー鈴木:評論家
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