ソフトバンク"脳細胞"を活用する異例の取り組み 次世代のAIとして2050年の実用化を目指す
東洋経済オンライン / 2025年1月24日 9時0分
さらに簡易的なゲーム課題を設定し、成功時の報酬刺激と失敗時のペナルティ刺激をフィードバックする強化学習の実験では、20分ほどの連続刺激で課題の成功率が1.5倍に高まったケースがある。わずかな電気刺激で目に見える変化が得られる点が、脳オルガノイドの興味深い特徴だ。
脳のパーツをつなげて性能向上
1個のオルガノイドだけでは情報処理に限界があるが、複数のオルガノイドを結合すると、より高度な学習が期待できるという。東京大学の池内与志穂准教授は、「複数のオルガノイドを神経突起(軸索)でつなぎ、それぞれに異なる役割をもたせる」技術を開発し、この連結された回路を「コネクトイド」と名付けている。脳には視覚や運動などさまざまな領域が存在し、相互にシナプス(神経接合部)を形成することで高度な情報処理を行うが、その仕組みをモデルにしたものだ。
実験では、オルガノイドを単体(Solo)、2個接続(Duo)、3個接続(Trio)の条件で刺激の分類タスクを行ったところ、個数が増えるほど分類精度が上がる結果が得られた。池内准教授は「オルガノイドを連結した部分の結合は弱くなりがちですが、強い結合部と弱い結合部が組み合わさることで情報処理が可能になる」と説明する。この“コネクトイド”技術が大規模に展開できれば、さらに複雑なタスクへ応用できるようになるかもしれない。
ただし、現状のオルガノイドはまだ発展途上で、ソフトバンク先端技術研究所の朝倉慶介氏は「まるで赤ちゃんの脳のような段階」と述べる。培養には3~6カ月かかり、温度や栄養を細かく管理する手間も大きい。また、生物由来のため個体差があり、同じ刺激を与えても反応が異なるケースが多いという。
学習らしき反応は確認されているが、本格的な性能を引き出すにはさらに培養技術や刺激の方法を洗練させる必要がある。仮にこのオルガノイドを人間の脳並みに成熟させ、20W程度の電力で膨大な情報処理を行えるようになれば、スーパーコンピューターや大規模AIが抱える電力・規模の制約を緩和できるかもしれないが、そのハードルは依然として高い。
脳細胞が変える未来像
ソフトバンクは2030年頃までに小型・省エネセンサーとしての応用を目指し、2040年頃にはロボット制御や複雑な運動タスクへ拡張、さらに2050年以降は自動運転やクリエイティブ領域など、高度な判断が必要な分野へ展開するロードマップを描いている。
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