「鼻が反り返った小さなヘビ」が急死した本当の訳 誤った飼い方で死んでしまうケースはよくある
東洋経済オンライン / 2025年1月26日 9時0分
そのため、ヘビを病理解剖するときは、お腹の鱗と、体鱗という背中側の鱗の境目の部分を縦に切るようにします。こうすることで、最後に傷口をきれいに縫い合わせれば、切開の痕が目立たなくなるのです。動物病院でヘビの手術をするときも、同じところの皮膚を切開しています。
そうやって遺体から臓器を取り出し、詳細に検査を進めた結果、肝臓に炎症を見つけました。炎症の原因は、抗酸菌。アメーバではなく、抗酸菌が死因だったことになります。
抗酸菌も、ある程度経験がないと見逃されることが多い病原体です。
抗酸菌は水回りや土壌などに広く生息している細菌です。さまざまな種類がいて、ヘビだけでなく、多くの動物が感染します。
ヒトにも感染することがあり、長引く咳や血の混じったたん、体重の減少といった、結核に似た症状を引き起こす「非結核性抗酸菌症(NTM症)」が、最近、増えてきているといいます。あまり知られていませんが、年間2万人が罹患しているというデータもあります。
不明な点が多いNTM症
実をいうと、ヒトと同様に動物でも、最近このNTM症と診断される例が増えているように感じています。
NTM症は結核とは異なり、通常、ヒトからヒトに感染することはありません。ただ、まだまだ不明な点の多い病気です。感染症全般にいえることですが、子どもやお年寄り、免疫抑制薬を使っている方などは感染しやすいので、特に注意が必要でしょう。
アメーバが原因でなかったことに、飼い主さんは安堵されていました。
もしアメーバが原因であった場合、ほかに飼っているカメのフンを触った手でヘビを触ってしまった、飼育器具を共有してしまったなど、飼い主さんの飼育管理に落ち度があった可能性がありました。
一方、NTM症については、現状その原因については不明な点が多く具体的な予防策が存在していません。
体力を落とさないように健康を保つことや、飼育環境をしっかり整備すること、環境に存在する細菌であるため傷口からの感染を防ぐべく、傷があればきちんとケアしておく、くらいのことしかできません。原因がまだよくわかっていないので、防ぐのが難しい病気であるのが現実です。
近年、爬虫類の飼育が大きなブームとなり、メディアには「爬虫類女子」などの言葉が躍っています。その言葉に、どこか軽い、あるいはネガティブな印象も抱く人もいるでしょう(かつては僕もそうでした)。
しかし、僕が獣医病理医として接してきた爬虫類女子の方々は、単に爬虫類を可愛がるだけでなく、この依頼者のように飼育記録をしっかりとつけ、ペットが亡くなった際には死因を知ろうとし、動物の死から学ぼうとする真摯な姿勢を感じるような人たちばかりです。
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