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村上春樹も住んだ男子寮「和敬塾」の濃密な日常 令和でも健在「同じ釜の飯を食う」濃い人間関係

東洋経済オンライン / 2025年1月27日 8時30分

入寮して驚いたのは、先輩との距離感の近さだった。入寮してすぐに寮内をあいさつ回りして1時間程度先輩たちと話すといい、そこから「この人はどんな人なのだろうという、人間の探り合いが始まりました」(松岡さん)。男子寮でバンカラな雰囲気がある和敬塾には先輩の意見や命令は絶対というイメージがあるが、「今は先輩ともきちんと対等に話せます。昔はそういう雰囲気もあったようですが、今はまた違う雰囲気で楽しいです」と話す。

松岡さんは大学2年のとき、大野さんも話していた体育祭の体育部長として行事の運営役も務めた。競技会場の用意や各種目のルール作りなどを各寮の代表者らと話し合って決めた。体育祭では、皆に胴上げしてもらったことが思い出だ。

和敬塾は学生同士が心身ともに近い関係で濃密な時間を過ごすだけに、新型コロナウイルス禍は寮創設以来、最も厳しい時期となった。人間関係が濃い和敬塾にとって、いわゆる「3密(密閉、密集、密接)回避」というのは非常につらいことであり、体育祭も3年間できなかった。しかし、松岡さんらは「伝統をここで途切れさせるわけにはいかない。後輩たちに残していきたい」と奮起し、コロナ前とほぼ同じ規模の体育祭を復活させた。

人生において和敬塾の人間関係は役立つ

多様で濃い人間関係にもまれながら、人として大きく成長できる和敬塾への愛着は、「むしろ社会に出てから実感することが多い」(佐々木さん)。OBも学生が和敬塾出身だとわかるだけで嬉しくなり、後輩をかわいがる人が多い。「おそらく人生において和敬塾の人間関係は役立つと思います」(松岡さん)、「和敬塾に入り、自分で考えて行動することが多くなりました」(大野さん)。

松岡さんは早稲田大の大学院に進み応用化学を研究する予定で、将来は化学プラントの設計などに携わりたいと考える。「今はオンラインやSNSで誰とでもすぐにやりとりできる世の中ですが、やはり直接会ってみないとわからない。和敬塾のいろいろありすぎる学生生活が楽しいです」。

大野さんはまだ1年生だが、スポーツクラブ運営などビジネスへの関心が高まっている。「オンラインは誰かがアプローチしないと話すことはありませんが、和敬塾ではたまたま誰かと会って話すことが多く、世界が広がります。入ってよかったです」。

1月18・19日に大学入学共通テストも終了し、これから大学受験が本格化する時期だ。和敬塾関係者や入寮者は今年も、濃い人間関係や学生生活を求めて寮の門をたたく学生を今か今かと待ち望んでいる。

岩崎 貴行:ジャーナリスト・文筆家

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