中華製AI「DeepSeek」はNVIDIAを駆逐するか 無料で性能はChatGPTにほぼ引けを取らない
東洋経済オンライン / 2025年1月28日 22時10分
なぜなら、DeepSeekのような中国勢がアメリカ勢の「10分の1」のコストでほぼ同等のAI製品を作れるのであれば、アメリカ勢による巨額投資がそもそも無駄金という結論になるからだ。それまで巨額のAIインフラ投資を見込んで上昇していたエヌビディアなどの株価が急落したのはそのためだ。
DeepSeekの登場はNVIDIAには追い風?
ただ、今後本当にエヌビディア製の先端GPUなどAIインフラへの需要が減少するかというと、実際にはその逆との見方が優勢である。
19世紀の産業革命など過去の歴史を振り返ると、技術革新によって石炭など資源の利用効率が向上し、その資源を節約できるようになると、むしろ資源の利用量は増加してきた。
利用効率が高まると、石炭を使った製品やサービスがより安価になり、社会におけるそれらの利用が増えるからだ。これは一般に「ジェヴォンズの逆説(Jevons paradox)」と呼ばれる。
今後の生成AIもDeepSeekによる低コスト化を引き金に安価になって利用量が増え、それに伴い生成AIの資源となるGPUの使用量(需要)も減るどころか、むしろ増加していくと見られる。従ってエヌビディアの株価は一時的に急落しても、いずれ持ち直して再び上昇基調に戻ると見られている。
一方、中国国内では、OpenAIなどアメリカ勢をコスト面で打ち負かすという華々しい戦果を上げたDeepSeekは国民的ヒーローのような扱いを受けている。
その創業者である梁氏は20日、中国の李強首相が主催した企業経営者らとの懇親会に招待された。1985年生まれの梁氏はまだ30代だが、AI関連の若手起業家として招待されたのは同氏1人だけだ。
アメリカ一強体制が崩れ世界のAI開発は混戦に
それまでChatGPTなど生成AIの技術力ではOpenAIなどアメリカ勢が諸外国よりも圧倒的に優位と見られていたが、DeepSeekの登場によって少なくとも中国とアメリカの差は一気に縮まった。
しかもそれをやり遂げたのが、アメリカなど西欧圏への留学経験を持たないとされる純粋な国産のAI研究者(梁氏の中核チーム)であったことが、李強首相をはじめ中国の政治家をいたく喜ばせたようだ。
ただ今後、アメリカや日本、ヨーロッパをはじめ世界市場でDeepSeekがOpenAIなどアメリカ勢のシェアを大幅に侵食するところまで成長するかどうかは、もう少し様子を見ないとわからない。
確かにアメリカでは目下、DeepSeekがアプリのダウンロード数でトップになっているものの、その直前にCNBCテレビの報道番組で取り上げられるなど一時的な要因が大きく作用しているからだ。
とはいえ、DeepSeekの研究者らがOpenAIなどアメリカ勢に匹敵する技術力を蓄えていることは厳然たる事実だ。今後、彼らのやり方を踏襲して日本をはじめ諸外国のAIスタートアップも力を伸ばしてくるかもしれない。生成AIの分野におけるアメリカ一強体制が崩れ、混戦模様になってくる可能性が出てきた。
小林 雅一:KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授
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