「京アニ事件」報じられなかった被告の病的体験 「社会的孤立」に限定されない複合的な原因があった?
東洋経済オンライン / 2025年1月31日 8時10分
しかし、裁判記録を読む中で、そうした分析は大きく修正を余儀なくされた。それは精神鑑定によって明らかにされた「生物」的要因がきわめて重要だと思われたからである。
青葉被告は2名の医師から鑑定を受けている。第1の鑑定医は、被告は統合失調型パーソナリティだと診断し、これはパーソナリティの逸脱にすぎないから責任能力には影響がないと述べている。
一方、第2の鑑定医は、被告は統合失調症スペクトラムであったと診断し、少なくとも部分的には責任能力が損なわれていたと述べた。
被告は、中学に上がったころから、幻覚妄想のような体験が始まっている。しかし、定時制高校には皆勤で通学し、友達にも恵まれ非常に安定した生活を送っていた。この時期は、精神的にも非常に安定し、特に病的な体験はなかったようである。
病的体験が前面に出るようになったのは、就職をしてからである。青葉被告は、京アニの女性監督とネットでやり取りして恋愛しているという思い込みをし、自作の小説を京アニに盗まれたという主張を展開するようになった。
また、常に「闇のナンバー2」という得体の知れない人物から監視されていたとも主張するようになった。京アニに応募した彼の「作品」が落選したのは、この「闇ナンバー2」による陰謀だと思い込むようになっていった。
犯罪の原因は複合的
こうした妄想的な思考は、事件の前後を通してまったく揺るがず、このような病的思考がなければ、これほどの事件が生じることはなかった可能性が大きい。
ただし、精神障害自体が犯罪に直結するという短絡的な推測は慎むべきである。先にのべたように、犯罪の原因としては、環境や病前のパーソナリティや価値観、行動傾向なども組み合わせて慎重に検討する必要がある。
青葉被告は妄想が深刻になる前に、下着窃盗やコンビニ強盗などの犯歴があり、病前の性格としては、人に恨みを抱きやすかったり、粗暴だったりといった反社会的な傾向があったと想定される。
また、孤立し、社会的に不遇な毎日のなかで、絶望的になったり、社会に対して恨みを募らせていたりしたことも事実であろう。
つまり、こうした要因に精神障害が組み合わさって、今回の事件に至ったと見るべきである。
したがって、たしかに本人に責任はあるものの、精神障害の影響による部分も考慮される必要があったのではないかと考えられる。
この点に関して、精神鑑定でも意見が分かれていたのは先述のとおりだ。そして、判決では精神障害の影響を否定し、「完全責任能力あり」という判断となった結果、死刑判決に至った。
精神障害の影響は究明されないままに
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