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「京アニ事件」報じられなかった被告の病的体験 「社会的孤立」に限定されない複合的な原因があった?

東洋経済オンライン / 2025年1月31日 8時10分

しかし、少なくとも2つの精神鑑定の結果が不一致であったことは厳然たる事実だ。私はどちらかの意見に肩入れするわけではないが、控訴審においては、精神鑑定の結果やそれに関連する被告の行動傾向、そして犯罪事実との関連が、再度詳細に検討されることを期待していた。

しかし、被告の控訴取り下げによる死刑の確定によって、それは永久に不可能なこととなった。

したがって、今われわれにできることは、このような不幸な事件が二度と起こらないように再発防止策を検討することしかない。

事件の1つの背景として、社会的孤立があることはほぼ間違いない。つい先日起きた長野駅前での殺傷事件でも、容疑者は無職で一人暮らしの中年男性だと報じられている。また、これまでの無差別殺傷事件などを見ても、容疑者はいずれも社会的に孤立し、人生に絶望した「無敵の人」であった。

したがって、雇用対策や孤立防止策をこれまで以上に徹底的にやるべきであることは言を俟たない。しかし、それだけで京アニ事件が防止できたかと言えば、それは無理であろう。なぜなら、先に述べたように、この事件では、精神障害の影響が無視できないからだ。

ここで重要になってくるのは、「精神障害を持って孤立している人」への支援である。このような二重三重に脆弱性を有する人は、社会から見落とされ、見捨てられやすい。

社会全体を守るためのセーフティネット

たとえば、青葉被告は事件前の長い期間、訪問看護師に粗暴な言動を取った結果、精神科の訪問看護を断り、服薬も中断していた。

もし彼に家族や親密な関係の友人がいたなら、また福祉的なサポートがもっと手厚くなされていたなら、訪問看護を受け続け、服薬を続けるように説得することもできた可能がある。「厄介な人」を放置すれば、ますます「厄介」になって、自殺や事件のような最悪の結果を招くことになってしまう。

深刻な孤立や障害のある人を見落とさず、見捨てない。このような社会の「セーフティネット」は、その当事者を守るだけでなく、社会全体を守る機能も果たすのだということをわれわれはいま一度確認する必要があるだろう。
 

原田 隆之:筑波大学教授

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