「負け犬」から22年、酒井順子氏語る「子の無い人生」 令和は「負け犬」にとって生きやすい社会なのか
東洋経済オンライン / 2025年1月31日 7時40分
4半世紀の時が過ぎ、同世代が産み育てた子どもたちは立派な大人に成長し、「がんばって産み育ててよかったね」と言える状態になっている。しかし、「妊娠したら産むだろうし、産まなかったら産まないでそのまま行くだろう、と思っていました」と振り返る酒井氏自身は、「産まなくてよかった」と言う。
「大人になって『あのときお母さんにこういうことを言われて、すごく傷ついた』など言われても、取り返しはつかない。何より、生物のお世話が本当に向いていない」、と育てる難しさを挙げる。
「去年から、仏壇の花を造花にしたんですよ。毎日水を取り替えるのも苦手だったので、本当にストレスがなくなりました。生物を育てるのは皿回しみたいなもの。常に皿を回し続けていないといけないのが向いていないんだと思います」
「産む」・「産まない」のどちらもありと思っているが、酒井氏は「子育ては、お金を稼ぐための仕事とは一線を画していると思います。お母さんをやっている人は、やっぱり優しい。でも、子どもがいなくても優しい人はたくさんいるし、『子育てで得た何かをもう忘れてしまったのでは?』と感じる人もいる。けれど、『自分の書いた本が子どものようなものです』とは言えないですね」と語る。
しかし、「パートナーはいたほうがいい」とする酒井氏自身、今は同居するパートナーがいる。実は2003年に刊行して社会現象になった『負け犬の遠吠え』も、「1人でも大丈夫、と言いたかったわけではなく、どちらかというと逆の意図で書いたのですが、いろいろな読み方をされましたね」と振り返る。
「私自身、30代の負け犬盛りの頃に、ローキックを少しずつ当てられているように精神を削られていく感覚がありました。『1人でもいいんだよ』という風潮がありますが、寂しさを軽く見ないほうがいい。
寒いときに『寒いね』、おいしいときに『おいしいね』と言い合うのは、何かを生み出すわけじゃないけれど、精神の健康にとって重要ではないかという気がしています。もちろん、1人が全然平気な人もいるので、全員にパートナーがいる必要もないとは思いますが」
「負け犬」には生きやすい社会になった
「負け犬」は、昔に比べれば生きやすいはずだ。酒井氏は「松本清張の小説に『負け犬』ものがありまして」と切り出す。「そこに出てくる独身の女性は、ギスギスしていてガリガリに痩せ、社内で金貸しをするなどお金を増やすことしか楽しみがなく、挙句の果てに殺されてしまう。そんな作品が何作かあって、“ハイミス”は馬鹿にされて当たり前の存在だったことを感じます。いまのおひとり様小説とは大きく違います」。
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