「負け犬」から22年、酒井順子氏語る「子の無い人生」 令和は「負け犬」にとって生きやすい社会なのか
東洋経済オンライン / 2025年1月31日 7時40分
コンプライアンスの考え方が浸透したことはよかったと話す。
「今は『産んでいない人にはわからない』とは言えないし、『専業主婦は世間を知らないくせに』とも言えない。内心どう思っていようと、口に出さないことは意外に大切だったと思います。礫の投げ合いが減ったことによって、表面だけでも近づいて『お互い大変なんだ』と思いやれるようになった。コンプライアンスに息苦しさを感じる人もいる一方、マイノリティは、以前より息をしやすくなっていると思います」
政治の世界を見ると、「保守系の女性議員が、無理をしてまで子どもを産もうとする人もいます。人間は子どもを持ってナンボ、という考えを持つ人はまだたくさんいます」と言うが、「『結婚しないの?』的なことを言う人が、一部に残っているのも別にいいんじゃないかと思います」とも。
「独身の人には何も言わないほうがいい、と放置されると、本当は寂しくてどうにかしたい人が、誰にも頼ることができなくなるのでは。もちろん、周り中から『結婚しろ』と言われるとつらいですが」
もっと立場の違う人同士が歩み寄れるといい
日本だけでなく、アメリカでもドナルド・トランプ氏が再び大統領になり、保守が強くなっている印象がある。子どもを産まない人、産みたくない人は生きづらい方向に行きはしないか。
しかし、酒井氏は「世の中は、あちらに揺れたりこちらに揺れたりしながら、進んでいきます。今までは、専業主婦と働く女性にしても、男と女にしても、対立構造になりがちだったじゃないですか。立場の違う人たちが手と手を取り合うのは難しかったけれど、不毛な対立ですよね。もっと男女も、子あり・子なしも、既婚者とそうじゃない人も歩み寄っていいし、人間としての親近感も抱いていきたいと思います」と話す。
確かにここ1~2年、わかりやすい白黒や断言で見逃される、微妙な心の揺れや現実のあいまいさを大切にしよう、とする識者の発言が散見される。子どもを「持つ」・「持たない」についても、産める年代の人も迷うし、産んだ人も産まなかった人も、後悔する場面があるかもしれない。そうした揺れや出した答えを自分で受け入れ、周りも肯定していくことで、世界はもっと広がるのではないだろうか。
阿古 真理:作家・生活史研究家
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