ピンチに陥った「蔦屋重三郎」救ってくれた人物 鱗形屋は信用失墜…重三郎はどう乗り切る?
東洋経済オンライン / 2025年2月8日 8時10分
とは言え、喜三二は堅苦しい「官僚タイプ」ではなく、江戸の一流文人と交流し、遊郭にも出入りしていました。「宝暦の色男」と自称したと言いますから、なかなかのものです。
吉原に出入りしていた喜三二は、次第に吉原通になっていったものと推測されます。
明和6年(1769)には、鱗形屋の『吉原細見』を執筆しています。安永6年(1777)には黄表紙『親敵討腹鞁』を執筆。同作で画を描いたのは、戯作者・浮世絵師の恋川春町でした。
喜三二は、鱗形屋の「専属作家」的立場と言われるように、鱗形屋と強い結び付きを持っていました。前述した鱗形屋孫兵衛の没落は、当然、彼ら作家たちにも大きな影響を与えます。
せっかく作品を書いても、刊行してくれる版元がなければ、どうにもなりません。
とは言え、版元は鱗形屋だけではありませんし、喜三二は人気作家でしたから、行き詰まるということはありませんでした。安永8年(1779)には、江戸の老舗出版社・鶴屋(喜右衛門)から、作品を刊行しているからです。
喜三二のような人気作家は、有力・老舗出版社が絶対にほしい人物。一方、蔦屋重三郎は、そうした強力版元と比べたら、弱小版元といってもいいでしょう。
ところが、先述したように、その蔦屋から、喜三二は安永9年(1780)に黄表紙3種を刊行しているのです。
重三郎と喜三二は、喜三二が出世し始めた頃からの知り合いでした。それまでにも、喜三二は蔦屋が刊行した『吉原細見』の序文や洒落本を書いていました。つまり、知らない仲ではなかったのです。
重三郎が悩んだときに浮かんだ人物
鱗形屋の経営危機の煽りを受けた重三郎は悩んだはずです。「これから、どうしよう、どのように経営を立て直そう……」と。そのときに、頭に浮かんだのが、鱗形屋の専属作家的立場で旧知の喜三二の顔だったのではないでしょうか。
重三郎は、喜三二と会い、喜三二が書いた作品を蔦屋から刊行してほしいと打診。喜三二もそれを快諾し、安永9年(1780)の蔦屋からの黄表紙出版に至ったと推測されます。
重三郎はその「墓碣銘」に「志気英邁」「細節を修めず」「人に接するに信を以す」と刻まれる人物です。
危機に際して、少しは悩んだかもしれませんが、どうにかしてみせると、すぐに行動(喜三二と会うなど)したのではないでしょうか。
一方、喜三二も先に記したような、重三郎の人間性を気に入っていて「よし、蔦屋から3作品出そう」と決断したのではないでしょうか。
もしかしたら、このとき、喜三二には、ほかの有力出版社から刊行の話もあったかもしれません。しかし、彼はそれを断り、重三郎に協力を約束したとも考えられます。重三郎の「挽回」は、彼の人間性の賜物だったと言えるでしょう。
鱗形屋の没落という危機。重三郎はその危機をチャンス(好機)に変えていったのでした。
(主要参考引用文献一覧)
・松木寛『蔦屋重三郎』(講談社、2002)
・鈴木俊幸『蔦屋重三郎』(平凡社、2024)
濱田 浩一郎:歴史学者、作家、評論家
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