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理系出身の彼女が「ひな人形」の家業を継いだ理由 埼玉県川越市「春蔵」 キャリアの先に描いた夢

東洋経済オンライン / 2025年2月12日 14時0分

「改めて父のひな人形を目にして、『こんなに素晴らしいものが近くにあったんだ』と感じました。私にとってひな人形は小さな頃から身近な存在でしたが、一般的にこうした伝統文化は身近なものではなくなりつつある。父のひな人形を広めて、伝統を次世代につながなければと思ったんです」

とはいえ、「父のひな人形を広めるために、家業に入りたい」という思いは、すぐに家族に打ち明けられなかった。伝統産業の多くは厳しい現状にあり、中でも少子化の影響を受けるひな人形は将来的な見通しが厳しい。

「家業に私がただ入るだけでは、コストが上乗せになってしまうだけ。貢献できなければ、足手まといになってしまい無意味だと思いました」

3カ月悩んだ末、祐希奈さんが「家業を継ぎたい」と家族に打ち明けた際、父・直人さんは驚いた様子で賛成も反対もしなかった。

「父に話をうまくはぐらかされて、その日は終わってしまいました。今振り返ると、業界の厳しさや伝統を受け継ぐ難しさを痛感している父だからこそ、賛成も反対もしなかったんだと思います」

話はうやむやのままだったが、祐希奈さんは引き続き、家業に貢献できる方法を考え続けた。

結果、必要だと感じたのは販路の新規開拓。そのため自身で営業の経験を積もうと勤務先で異動を考えたが、「当時いた会社では既存顧客への営業がほとんどでした。家業に貢献するには、まず新規開拓できる営業力が必要だと考え、転職を決意しました」

転職活動では、「ゆくゆくは家業を継ごうと考えているが、営業スキルを学ばせてほしい」と正直に話していたという。「若手がそんなことを面接で言うなんて、おこがましいとも思ったのですが、正直に伝えておかなければ転職先に不誠実だと思ったんです」

その後、無事、祐希奈さんの真っすぐな想いを受け入れてくれる会社と巡り合い、テレアポから飛び込み営業まで経験。営業の基本から新規開拓のスキルまで学ぶことができた。

「営業においては、まずお客さまのニーズを知ることが重要だと学びました。今も、『大きなひな人形を飾るスペースがない』といったお客さまの悩みを丁寧にヒアリングしたうえで、自社の商品を絡めた解決策を提案するよう心がけています」

5カ年計画を通じて見えた父と同じ想い

帰省のたび、家業に貢献したい想いや仕事の成果を報告し続けた祐希奈さんだったが、直人さんはなかなか首を縦に振ってくれなかった。

しかし、営業成績が継続的に出せるようになって自信がついてきたある日、ようやく事態は好転する。祐希奈さんが家業の5カ年計画を作成し、意を決して直人さんにプレゼンしたのだ。

「5カ年計画には、今後新規開拓すべき営業先や、そこから見込まれる売上金額の目標などを盛り込みました」。5カ年計画を作成しようと考えたのは、1社目で経営会議を間近で見て、経営陣がどんな要素で意思決定をするのか学んだ経験からだった。

「家業に入りたい」と娘が転職までして学び、作り込んだ5カ年計画は、「父が密かに練っていた家業の構想と重なる部分が多かった」という。直人さんは遂に、祐希奈さんが家業に入ることを認めた。

こうして2022年、祐希奈さんが家業に入ったことを契機に、直人さんの工房に「春蔵」という名前を付け、同時にひな人形ブランド「HARUKURA」を立ち上げた。

以来、試行錯誤を続けながら、春蔵だからできること、春蔵しかできないことを探し求めている。「ひな人形を広めたい」という父娘の夢は、今も発展途上だ。

【関連記事】「花のように飾れるおひな様」伝統と革新のかたち

笠井 ゆかり:フリーライター

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