ドイツの電撃戦もこの戦車がなければ実現しなかった!? 大戦序盤の機甲部隊を支えた戦車とは 実は“チェコ製”
乗りものニュース / 2024年4月29日 18時12分
1940年5月から開始されたフランス及び西欧に対するナチスドイツの「電撃戦」と呼ばれた侵攻作戦。それを支えた存在のひとつともいわれるのが、チェコ製の戦車である38(t)です。
開戦序盤に戦車不足のドイツ機甲部隊を支える
1940年5月から開始されたナチスドイツによるフランス及び西欧への侵攻作戦は「電撃戦」ともいわれ、戦車や自動車などの機甲部隊を中心とした戦法で圧倒した戦として知られています。その電撃戦を支えていた戦車のひとつが、チェコのシュコダ社が開発した軽戦車「38(t)」でした。
第二次世界大戦は1939年9月1日、ドイツが突如としてポーランドへ侵攻し、始まることとなります。実はこの戦争は当初、ドイツの戦争準備が完全に整った状態で始まったわけではなく、冒険的外交をしすぎたためにイギリス、フランスの参戦を招き、なし崩し的に全面戦争へ突入したというものでした。
そのため戦車部隊に関しても、将来的な米仏戦に備え主力として投入する予定だった中戦車であるIII、IV号戦車の生産がぜんぜん間に合っていないような状態でした。そして、それは翌年の1940年5月10日より開始された西欧侵攻作戦(黄色作戦)でも同様でした。
攻める側のドイツは2500両の戦車を投入しましたが、元々は訓練用で武装が機関銃のみのI号戦車や、やや大きいものの機関砲が主武装のII号戦など、軽戦車が実質的な主力でした。
そうした軽戦車の中で38(t)は、 主砲は37mm砲、車体および砲塔前面装甲は25mmと他の軽戦車より武装や装甲に優れていました。特に37口径の主砲は、当時の基準としては砲身が長めの戦車砲で、単純な火力だけならばドイツが本格投入し始めたIII号戦車の初期型に匹敵するものでした。
さらにガソリンエンジンのほか、最前部に変速機と操向機、後部に機関室というドイツ戦車にも共通するレイアウトだったため、他のドイツ戦車と運用するのにも適していました。また、大型転輪4個というドイツ戦車にない足回りの設計は、整備性も信頼性もかなり高かったと言われています。そのため、フランス侵攻時は、貴重な対戦車戦闘を行える戦車として220両以上が投入されることになります。
この戦車がなければ戦争はもっと早く終わっていた!?
そもそもなぜ、チェコ製の戦車がドイツに配備されていたかというと、第二次大戦勃発直前のチェコスロバキアの事情が関係してきます。
第一次世界大戦でオーストリア・ハンガリー帝国から独立した同国ですが、ドイツにナチス政権が成立した後は同国と深刻な対立関係にあり、自国の安全保障のために戦車を自国で開発しドイツに対抗しようという計画を立てます。当時チェコスロバキアは東欧随一の工業国でした。その際に計画された1両がLT-38戦車で、これが後にドイツで38(t)となります。
ドイツは1938年9月、外交戦略によりチェコスロバキアにズデーテン地方を割譲させると、1939年3月にはチェコスロバキアを解体。その際、現在のチェコ側の領土となる地域のほとんどはドイツに併合されることなり、量産の始まったばかりのLT-38も接収されたのです。そのズデーテン地方を割譲する際、チェコスロバキアを見捨てた国のひとつであるフランスで38(t)は真価を発揮することになります。
38(t)と戦闘を行った騎兵戦車のソミュアS35、軽戦車のオチキスH35、中戦車のルノーD2といったフランス軍の戦車は、どれも火力・装甲ともに38(t)よりも優れていました。それどころかIII号戦車、IV号戦車よりも高い火力と装甲を誇っており、数も上回っていました。
しかし、これらのフランス戦車は速力が遅く、無線も搭載されていなかったことから、ドイツ軍戦車部隊は軽快な速力と無線を活かした戦法で有利に戦闘を進めることになります。そうした機動戦にも耐えられる性能を、本来チェコ製である38(t)は持っていました。
38(t)はリベット留め装甲板の強度や、被弾時にリベットが車内を跳ね飛んで危険といった問題、砲塔旋回装置が重い手動式で、車長が砲手を兼ねるため指揮に専念できないといった欠点こそありましたが、当時ドイツが運用していた戦車のなかではかなり優秀でした。そのため、同戦車がなければ、ポーランド侵攻やフランス侵攻に成功することはなく、戦争は早々に終結してしまっていた可能性もあるといわれています。
ちなみに、38(t)のtは重さの「トン」を示すのではなく、チェコ製を示す「Tschechisch」の略で、車体重量は9.5トンでした。
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