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「修学旅行が忙しいので高速バス運休」という苦渋の決断 難しくなる“需要爆発”への対応 人手不足でどう乗り切る

乗りものニュース / 2024年5月3日 9時42分

富山駅バス乗り場。右端に富山地方鉄道の高速バスが停車中(画像:photoibrary)。

予約を開始した高速バスを、「修学旅行の需要集中」から運休し、払戻しをせざるを得なくなるという事態が発生。路線バス、高速バス、貸切バスの間で一時的に集中する需要を補い合う体制も、人手不足によって変わってきています。

「高速バス運休」決断→払戻し対応 影響は大きい

 富山地方鉄道が2024年5月に、高速バスなどの一部の便を運休すると発表しました。理由を「富山市内中学校の修学旅行による輸送需要の一時的な増大に対応するため」としています。全国的にバス乗務員が不足する中ですが、予約受付開始後の便を運休し個別に払い戻すのは異例で、苦渋の決断だと思われます。

 特に富山~名古屋線は、新幹線だと乗り換えが1度または2度必要な区間を東海北陸道経由により最短距離で結ぶ人気の路線で、運休は一部の便とはいえ、利用者への影響もバス事業者の収益へのマイナスも小さくありません。

 それにしても、修学旅行の貸切バスに需要が集中するために高速バスを運休するというのは意外です。というのも、中学校の修学旅行の多い5月の平日は、高速バスにとっては閑散期だからです。

 逆に、例えば毎年8月の上中旬は、「夏の甲子園」の応援団輸送のため貸切バスの車両稼働率が上がり、同時に高速バスも繁忙期を迎え稼働が逼迫します。出場校が勝ち進むとお盆の帰省ラッシュと重なるため、地元校を応援する気持ちと車両や乗務員の運用の心配との間で担当者はいつもやきもきします。

 言い換えれば、高速バス部門と貸切バス部門とで車両や乗務員をやりくりすること自体は一般的なことなのです。

 特に富山地鉄のような地方の乗合バス事業者は、大きな営業所を抱え路線バス、高速バス、貸切バスなどを一手に運行しています。乗務員は担当が分かれるものの、繁忙日には運行管理者の判断で他の部門を応援する体制が組まれているのが普通です。高速バスの続行便(繁忙日のみ走る2号車、3号車)に貸切バス用の車両が投入されることもよくあります。

 今回の件からは、時期的にも事業者の性格的にもシビアではない条件にもかかわらず運休を余儀なくされるほど、乗務員が不足している状況が伝わってきます。

勤務調整の神ワザで乗り切ってきた“需要爆発”

 そもそも、路線バスの仕業(ダイヤ)は、平日の方が週末より多い一方、高速バスは週末に続行便が多く出るので、仕業数は補完関係にあると言えます。また貸切バスは春と秋の旅行シーズンの稼働率が高く、また大型イベントやクルーズ船の寄港があるとその日だけ需要が「爆発」します。車両数も乗務員数も限りある中、需要の波動に対応するための相互の応援体制は古くから各社で定着しています。

 路線バス乗務員は、「交番」と呼ばれる勤務シフトが先々まで決まっているのが一般的です。法令で「1日に運転できる時間の前後2日の平均」とか「退勤から次の出勤までの最低の時間(インターバル)」などかなり細かい規制があり、それに合わせてシフトが組まれているのです。

 高速バスや貸切バスに応援乗務できる人は限られるため、応援を出すとシフトが崩れてしまいますが、応援に行く人、その仕業を公休(休日)出勤などで穴埋めする人、もともと高速バス担当の人など、全ての乗務員の勤務が法令の範囲内に収まるよう、運行管理者がパズルを解くように勤務を調整するのです。

 大手私鉄系事業者の中には、京王バスや東急バス、名鉄バスのように高速バス専門、またはほぼ専門の営業所を持つ会社もあります。一般的に、公休者の数はどの曜日も同じなので、路線バスのダイヤ数が減る週末を中心に、路線バス営業所から高速バス営業所に応援出勤を出すのが普通です。将来、高速バスや貸切バスをメインで担当したい若手の路線バス乗務員には、全長12mの高速バス車両の実績を積む貴重な機会でもあります。

 新宿~富士五湖線など週末に特に需要が膨らむ路線を運行する事業者にとっては、路線バスからの応援体制は、週末に「満席お断り」を減らし需要に最大に応えるための大きな武器でした。

 しかし、慢性的な乗務員不足で、その応援も以前より難しくなりつつあります。

他社に「助けて!」今後ますます重要に?

 国全体の年齢別人口構成を見ると、50歳の人(「団塊ジュニア」)が約200万人いるのに対し、今年の20歳は112万人、今年の赤ちゃんは約72万人(見込み)しかいません。急速な人口減少、とりわけ生産年齢人口の減少で、あらゆる業界が極端な人手不足に陥っています。

 バス業界でも運賃値上げとそれに伴う待遇改善が相次いでいますが、他業界も賃上げするので簡単に解決しない上、子どもの数を考えると人手不足は長く続きそうです。路線バス営業所としては、所属乗務員に十分な休みを取ってもらうには高速バスの応援まで手が回らず、続行便が不足するケースが増えています。

 ましてや、大手私鉄系でも高速バス事業が別法人となっている会社(小田急系、阪急系など)ではその応援体制も組めません。さらに、JR系や高速ツアーバスからの移行事業者らは高速バス専業(ほぼ専業を含む)または高速バスと貸切バスのみを運行しており、波動対応は困難です。

 それを見越して、国は2012年から「管理の受委託」制度を充実させました。共同運行先や資本関係のある乗合バス(高速バスなど)事業者に加え、貸切バス事業者に対しても高速バスの運行の一部を委託可能になり、その条件や手続きも簡素化されています。

 貸切バス事業者から見ると、国内客、訪日客(インバウンド)ともに旅行形態が団体旅行から個人旅行へとシフトが進む上、少子化で学級数が減少し修学旅行や遠足の台数が減っており、長期的には苦戦が予測されます。インバウンドの主役は今やFIT(個人自由旅行)で、バス業界では高速バスや定期観光バスの領域です。だからと言って、B to B(旅行会社など法人向け)事業を行っていた会社がB to C(個人向け)に変わるには大変なノウハウが必要です。

 また、大都市圏の郊外部に立地する乗合バス事業者は、団地やニュータウンから駅までの通勤路線が多い上、大学の郊外キャンパスのスクールバスを受託するケースもあり、平日と週末とで仕業(ダイヤ)数に大きな差がある傾向です。

 今後、大都市立地で大規模に高速バス路線を展開する事業者らが、週末や夏期、年末年始などの続行便の台数を確保する目的で、資本関係の有無にかかわらず、比較的大手の貸切専業のバス事業者や郊外の乗合バス事業者などと積極的に提携関係を結ぶというような、新たな動きもみられるかもしれません。

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