「実は『ボレロ』はラベルにとっては大好きな作品ではなかったのです」『ボレロ 永遠の旋律』アンヌ・フォンテーヌ監督【インタビュー】
エンタメOVO / 2024年8月8日 8時0分
-映画の中の「ボレロ」といえば、クロード・ルルーシュ監督の『愛と哀しみのボレロ』(80)が有名ですが、その中でモーリス・ベジャールの振り付けでジョルジュ・ドンが踊る場面がありました。それがこの映画のイダ・ルビンシュタインの踊りと重なりました。
今回、イダ・ルビンシュタインの「ボレロ」のダンスを演出するに当たって、当時の写真を参考にしました。イダの衣装はもちろん、大衆酒場的なところに丸いテーブルがあってその上で踊ったという。ベジャールもその写真を基に振り付けを考えたというのは有名な話です。ただ、イダの初演は表現主義的というか、ダンスはあまりうまくはなかったけれど、とてもキャラの立つ人で、自分の考えを押し通すタイプだったようです。私も『愛と哀しみのボレロ』は見ていますし、ジョルジュ・ドンのバレエもライブで見ています。
-最近は、同性愛を描く映画も多いですが、この映画はラベルをアセクシャルとして描いていました。それは意図的にそう描こうと考えたのでしょうか。
彼がアセクシャルだったということは、彼の内面を描く上ではとても大切な要素の一つでした。つまり彼は、性衝動を全て音楽に注ぎ込んだ人だったのです。性衝動の代替として音楽に注力したところを見せたいという思いもありました。それから母への愛がすごかったというのは事実です。母が亡くなって3年間も何も書けなかったというぐらいの溺愛ぶりでした。ラベルはひょっとしたら抑圧された同性愛者ではなかったのかという仮説があります。実際に実現してはいないけれども、そういうところがあったのではないかという。けれども真実は決して分かりません。今回、映画作りを通してラベルと身近に付き合った私の感覚としては、彼はどちらかというと性生活を持たない人だったというところに落ち着いています。
-ラストのラベルの夢の中に現れる女性たちの姿が印象的でした。ラベルにとって彼女たちはミューズのような存在であり、作曲にも影響を与えたというのがこの映画のテーマの一つだったのでしょうか。
その通りです。彼女たちをちゃんと表現する、ちゃんと表象としてスクリーンで見せることを心掛けました。ラベルの周りにいた女性たちは私にとっても大切な存在でした。しかも、それぞれが違うキャラクターでラベルを支えました。なので、ラベルが亡くなる時に、夢の中で彼女たちの姿が順々に現れて…という形で描いたわけです。セックスだけが、男女関係を結ぶものではないですよね。幸いなことに、彼女たちは本当に深い関係性でラベルと結びついていたと思います。ラベルには大人に成り切れない永遠の少年みたいな部分があった。だから、それ故のオーラみたいなものがあったのではないかと思います。
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