お餅だけじゃない? 誤えん・窒息予防でお正月に気をつけたい食材
ウェザーニュース / 2024年12月30日 5時10分
年末から正月三が日にかけての新聞やテレビ、インターネットなどで、たびたびお餅をのどに詰まらせ誤えん・窒息から死に至った、特に高齢者の事故のニュースが伝えられています。
のどに詰まらせやすいことがよく知られているお餅以外にも、三が日の食卓を彩るおせち料理の中に、実は誤えん・窒息につながりやすい食材がいくつも含まれているそうです。
気をつけたいおせち料理の食材と、誤えん・窒息がなぜ起こるのかや予防法などについて、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に伺いました。
お餅による高齢者の死亡者数は1月、特に三が日に集中
厚生労働省の人口動態調査によると、お餅を含めた「気道閉塞(へいそく=窒息)を生じた食物の誤えん」による死亡者数は2009年以降、80歳以上が年間2500人を超え、65歳以上が年間死亡者数の87~91%を占めていたそうです。
この調査を基に消費者庁が行った分析では、65歳以上の餅による窒息事故の死亡者数は2018年が363人、2019年が298人の計661人にも達しています。このうち男性が477人(72%)、女性が184人(28%)で、男性が女性よりも2.6倍も多いことがわかったといいます。
お餅による65歳以上の窒息死亡事故は、年間死亡者数の43%に及ぶ282人が1月に集中。さらに1~3日の正月三が日に127人、元日の1日が67人と際立った集中ぶりを示しています。
高齢者の誤えん・窒息は咀嚼力や筋力低下が原因に
高齢者に誤えんによる窒息事故が起こりやすいのはなぜなのでしょうか。
「まず、食べ物や飲み物を飲み込んで、食道から胃へと送られる一連の動作が『嚥下(えんげ)』と呼ばれることを理解しておいてください。嚥下は0.5秒間、ほんの一瞬といっていい間になされる反射的な動作です。しかし、加齢や病気によってこれがすんなりできない状態になることがあります。これを嚥下障害といいます。
一方、誤えんとは食べ物や異物がのどから胃に通じる食道に入らず、誤って隣接する肺に通じる気道に入ってしまうことをいいます。
気道は空気の通り道ですので、ここが食べ物や異物などで詰まってしまうと呼吸ができなくなる窒息状態に陥ってしまい、死につながる可能性も少なくありません」(山口先生)
なぜ高齢者は嚥下障害や誤えんを起こしやすいのでしょうか。
「いくつかの理由がありますが、まず、加齢によって奥歯が失われたり、入れ歯が増えたりすることによって、咀嚼力(そしゃくりょく)という物を噛み砕く力が弱まってしまうからです。
加齢により、唾液の分泌量も少なくなります。高齢者は多くの薬を服用しがちで、種類によっては唾液の分泌が少なくなる副作用をもつ薬もあります。そうなると食べた物がすんなり飲み込みにくくなります。また、舌がもつ圧力や口腔内の感覚が低下することで、飲み込んだ物がのどに残りやすくなり、気道閉塞が生じやすくなってしまいます。
のどに物が詰まった時は咳をすることで口腔内へ押し戻すことが可能ですが、加齢はその力も弱めてしまいます。
加齢によって咽頭(いんとう=気管の入り口)の位置が下がってくることも嚥下障害の原因になります。
食べ物を嚥下する時には咽頭を持ち上げてのどから気管につながる声門(せいもん)を閉じ、食べ物や異物が気管に流れ込まないようにします。加齢は『サルコペニア』とよばれる筋肉量の減少や筋力低下をもたらし、この機能も衰えさせてしまうのです。
また、注意力が不足している際に誤えんが生じやすいため、あまり気が散らないような状況で食事をすることも大切です。特に、認知症のある方は一口の量が多くなりがちで、かきこんで食事をしてしまう場合もあるので、食事の介助の際に、気をつけてあげてください。
食事の際に浅めのお皿やコップを使うほうが、飲み干す際にさほど上を向かずに済むので、誤えんの危険が少なくなるようです」(山口先生)
お餅だけじゃない、おせち料理などで気をつけたい食材
消費者庁の分析では、お餅による窒息事故が多く報告されていますが、それ以外にもおせち料理で“気をつけたい”食材には、どのような物が挙げられますか。
「お餅以外では、軟らかい食材だからといって安心しないことが大切です。たとえばかまぼこやコンニャクは表面がつるつるしていますから、よく噛まないまま飲み込んでしまい、誤えんを引き起こしてしまう可能性が高まります。
黒豆、栗もつるりとした食材ですからそのまま飲み込んでしまうことも少なくなく、高齢者に限らず、小児にとっても要注意です。サトイモも同様で、さらに粘度が高いことからのどや気管に張り付きやすく、気道閉塞の原因になりかねません。
巻きずしの海苔ものどに張り付きやすいので注意が必要です。紅白なますなど酢を使った料理はむせやすいので、気をつけるようにしましょう。団子もお餅と同じくコメ素材で作られていますので、同様に“危険”な食材といえるでしょう」(山口先生)
餅による窒息事故を予防するには?
そもそもお餅がのどに詰まりやすいのはなぜなのでしょうか。
「研究では、お餅は器から口に入った直後の50〜60℃では軟らかく、伸びやすい(付着性が小さい)のですが、餅の温度が外気温や体温などで40℃程度に低下すると硬くなり、付着性も増加します。これが喉に張り付きやすい状態といえ、窒息の大きな要因になるとされています」(山口先生)
お餅や団子、黒豆なども含めて、おせち料理の食材による窒息事故を予防するためには、どのような注意ポイントがありますか。
「まず、餅などを食べる前にお茶や汁物を飲んで、のどを潤しておくようにしましょう。そのうえで食べやすい大きさに小さく切っておき、食べる時は急いで飲み込まず、ゆっくりと噛んでから飲み込んでください。
高齢者や乳幼児と一緒におせち料理を食べる時は、まわりの人が十分な注意を払うようにしてください。高齢者では、薬の包み紙、義歯の詰まらせにも注意。乳幼児や小児はピーナッツやこんにゃくゼリーといった食べ物のほか、おもちゃなどの詰まらせにも気をつけましょう。
いざというときに備えて、応急処置法を理解しておくことも大切です。東京消防庁のホームページやYouTube公式チャンネルなどに、窒息時の応急手当法がわかりやすく公開されていますので、活用してみてください。
さらに、『温かい物は温かいうちに、冷たい物はよく冷やして食べる』ことも心がけておきましょう。
“おいしい”と感じられることは嚥下動作を促進させますが、“温かい/冷たい”と感じる温度刺激も嚥下を促す大きな要因になっていることが研究結果から判明しています。
温度が異なる1mlの水を咽頭に注入し、嚥下が始まるまでの反応時間を計測した実験では、体温に近い30~40℃では約15秒かかりましたが、熱い60℃以上と冷たい10~20℃では5秒未満で反応が起きたとのことでした」(山口先生)
おせち料理をおいしく食べて楽しいお正月を迎えるために、お餅以外の食材にも十分な注意を払うように心がけましょう。
参考資料
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「嚥下障害の症状と原因、そして対応と治療について」、板橋繁「高齢者の誤嚥性肺炎とその対策」
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