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省エネ暖房「ヒートポンプ」 企業や家庭のCO2排出量半減の可能性も

ウェザーニュース / 2025年1月15日 13時45分

ウェザーニュース

年の始まりから日本列島は寒気が襲来し、エアコンの暖房運転が欠かせないという家庭も多いのではないでしょうか。

エアコンには、再生可能エネルギーである空気熱を活用する「ヒートポンプ」という仕組みが使われています。ヒートポンプは電気ヒーターなどと比べてエネルギー効率が高く、燃焼系の暖房と比べてCO2(二酸化炭素)排出量の削減も図れる技術です。そのため、国内外で注目され、普及が進んでいるといいます。

ヒートポンプの省エネ性が高い理由や、地球温暖化の抑制につながるCO2排出量削減の具体例、ヒートポンプに関する海外の動向などについて、空調機器の大手メーカー・ダイキン工業コーポレートコミュニケーション室広報グループの重政周之(しげまさ・ちかし)さんに伺いました。

ヒートポンプとは? エアコン暖房の仕組み

エアコンの暖房機能に用いられているヒートポンプとは、どのような仕組みなのでしょうか。

「冬の冷たい空気中にも熱は存在しています。エアコンの暖房機能はその屋外の熱を室内に移動させることで部屋を暖かくしているのです。

ヒートポンプとはポンプが水をくみ上げるように、空気中の熱を集めて必要な場所に移動させる仕組みのことをいいます。エアコンはこの仕組みを用いて、冬の暖房では屋外の熱を室内に移動させて部屋を暖め、夏の冷房では室内の熱を屋外に移動させて部屋を涼しくしているのです」(重政さん)

具体的に、エアコンはどのような機器や構造で部屋を暖めているのでしょうか。

「エアコンは室内機と室外機があり、それぞれの内部には熱を空気の中から集めたり、空気中に逃がしたりすることができる熱交換器が収められています。室内機と室外機はパイプでつながっていて、パイプの中には熱を運ぶ冷媒(れいばい)というガスが循環しています。

室外機は屋外の空気を吸い込み、熱交換機で空気中の熱を集めます。集めた熱は冷媒が受け取って室内機へ運ばれ、温風となって送り出されます。これがヒートポンプを使ったエアコンの『暖める仕組み』です」(重政さん)

効率的に熱を生み出しながらCO2排出量も50%減

ヒートポンプが「省エネ性が高い」とされるのは、どのような理由によるのでしょうか。

「ヒートポンプを用いたエアコンは電力を使って運転しますが、使用する電気エネルギーよりも多くの熱エネルギーを得られるためです。

一般的な電気ストーブや電気ヒーターは、『1』の電力で最大『1』の熱を生み出します。一方、空気中の熱を集めて使うヒートポンプの場合、最新のものでは『1』の電力に『6』の空気熱がプラスされ、『7』の熱を生み出します」(重政さん)

「このように、ヒートポンプは投入したエネルギーよりもたくさんの熱エネルギーを得ることができるため、エネルギー効率が高く、省エネ性が高いのが特長です。そのため、室内全体を温めることにも適しています」(重政さん)

ヒートポンプの仕組みはエアコン以外にも使われているのでしょうか。

「ヒートポンプは、空気を温めるだけでなく水を温めてお湯を作ることもできるため、給湯設備にも用いられ、ヒートポンプ給湯機エコキュートの名称でも知られています。

一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターによると、日本の家庭からは年間で9947万t-CO2の二酸化炭素が排出されています。家庭の空調や給湯で使われている燃焼式機器をヒートポンプ機器に替えると、CO2排出量を約50%削減でき、5247万t-CO2に抑えられるといわれています」(重政さん)

オフィスビルや病院などのほか工場でも普及拡大

ヒートポンプは、家庭用のルームエアコンやエコキュート以外にも、オフィスビルや大規模な商業施設などの空調や、病院・宿泊施設の給湯にも利用されています。また、最近では、工場の生産工程の中で高温水が必要な場所への導入など、産業用途でもヒートポンプの普及が進んでいます。

産業用ヒートポンプを導入すると、CO2排出量やエネルギーコストはどのように変わるのでしょうか。

「工場では、高温水をつくり、その熱を使って食品や薬品を温めたり、塗装を乾燥させたりしています。

こうした高温水をつくるために必要な燃焼式蒸気ボイラーや温水ヒーターに替わる設備として、近年では年間CO2排出量や年間ランニングコスト(燃料・電気代)の観点から、循環する水を加熱して高温水をつくる『循環加温ヒートポンプ』への更新が進んでいます。

蒸気ボイラーから循環加温ヒートポンプへの更新では、年間CO2排出量と年間ランニングコストともに60%以上削減でき、温水ヒーターからの更新ではいずれも40%以上削減できると試算されています」(重政さん)

実際に導入され、効果が確認された事例はありますか。

「ダイキンでは、業務用エアコンの室外機を生産する堺製作所臨海工場(大阪府)の塗装ラインで、蒸気ボイラーから自社の循環加温ヒートポンプに更新しました。この更新で削減した年間のCO2排出量及びランニングコストを、2022年11月から2023年3月末までの実測データを元に試算しました。

その結果、年間CO2排出量は120t-CO2から16t-CO2に減少し、約86%削減されました。年間ランニングコストは481万円(ガス代)が84万円(電気代)に減少し、約82%削減されました」(重政さん)

世界でも進むヒートポンプ化の動き

ヒートポンプは日本が世界をリードする環境技術で、世界からも注目を集めています。

「はい。ヒートポンプは再生可能エネルギーである空気熱を活用する技術です。ヒートポンプの普及はカーボンニュートラル実現への貢献にもつながることだと思います」(重政さん)

ヒートポンプの導入は世界的にも進められているのでしょうか。

「欧州では、1990年代後半から再生可能エネルギーの利用を促進する政策が進められてきました。2009年1月にはヒートポンプも再生可能エネルギーを利用する技術として認定され、ヒートポンプ式暖房機器の導入も推奨されています。

暖房を特に多く利用し、石炭や石油などの化石燃料を使用したボイラーによる燃焼暖房が主流だった欧州では、2019年に掲げられた欧州グリーンディール政策などにより脱炭素化が加速しています。EUが掲げる2050年までのカーボンニュートラル達成に向けて、ヒートポンプ市場の拡大が見込まれています」(重政さん)

アメリカの状況はどうでしょうか。

「アメリカの空調機は冷房専用が主流で、暖房や給湯にはガスなどによる燃焼式が多く使われています。こうした中、米国政府は温室効果ガス排出実質ゼロをめざす環境政策を打ち出し、暖房や給湯でのヒートポンプの普及に取り組んでいます。

また、環境先進州の25州も2030年までに2000万台のヒートポンプを設置する目標を設定しています。そのうちのカリフォルニア州では、『2030年までに600万台のヒートポンプ機器を導入する』という目標を掲げており、その目標達成の支援にダイキンも合意しています」(重政さん)

地球温暖化の大きな要因となっているCO2を削減するための「切り札」として省エネ効果が高いヒートポンプへの期待は、海外でも高まっています。エネルギー価格が高騰し、電気代やガス代の値上がりが続く今、ヒートポンプが果たす役割と今後の動向に注目です。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。


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